「ごめん、仕事入ったから今日は一人で行ってきて」

朝、突然イルミにそんなことを言われた。
まだ昨日1回しか行ってないし、1回しか試合してないのに……1人で行けだなんて!もう!

文句を垂れながらも、怖い気持ちをごまかす様に全力疾走でなんとか1人で闘技場までやってきた。
相も変わらずむさ苦しい人ばっかりの受付をすり抜けてエントリーをするために進む。今日は出来るだけ試合をしよう。やれば出来るって事をイルミにみせつけてやるんだから!

「それでは順に番号を呼びますので、それまでお待ち下さい」
「はーい」

受付を済ませて闘技場へ入ると10分もしない内に呼ばれて、壇上に上がる。

「可愛い女の子が相手か。ちょっと気が引けるけど、容赦はしないよ?」
「私は、まともそうな人が相手で嬉しいです」

今回の相手は爽やかな見た目の男の人。多分イルミくらいの歳くらいかな?私よりは年上だと思う。
昨日の太ったおじさんとは違って、開始の合図とともに相手がこちらに向かってくる。慌てて避けるけど、腕が少しだけ切れちゃった。

「意外と素早いんだね、君」
「貴方こそ」

大丈夫、1回でちゃんとやれば倒せるはず。手に意識を集中させて、相手目掛けてあたしも走る。

「うっ…」
「よし!」

昨日のおじさんと違って感度も鋭いからか、手刀で簡単に男の人は意識を飛ばした。うん、まだこのレベルなら大丈夫そう。無事にカウントも終わって、ルンルン気分で壇上を降りた。ちょっと喉も渇いたし、飲み物か何か買うかなぁ。自販機を探してそのまま廊下をウロウロしていると、自販機が見付かった、けど、それよりも…!

「キルア!」
「ん?……ナマエ?!」
「やった〜!キルアだー!偶然だね!」

キルアが自販機の前に立ってるんだなんて!思ってもみなかったから、びっくりした。しかも、こんなにたくさん人がいる中で偶然会えるだなんて、ましてやイルミがいなくて1人で寂しかった時に会えるだなんて、すっごいラッキー!

「ナマエちゃんも闘技場に来てたんだね!俺達今から50階行くんだけど、ナマエちゃんは?」
「本当に?私も今から50階!」

ゴンくんがそう言いながらジュースをくれた。なんて気が利く子なんだー!
お礼を言ってから渇いた喉を潤すべく一気にジュースを流し込む。

「ぷはー!美味しい!」
「じゃあ一緒に行こうよ!」
「うん!」
「てゆうか兄貴は?1人って珍しいじゃん」
「今日仕事だってー」
「へぇ…」
「よっし!行くぞー!」

一気にジュースを飲み干して缶を捨てて、2人の先頭をきってエレベーターに乗る。幾分私の方が身長が高いから、2人といるとちょっぴりお姉さん気分で嬉しくなっていたら、キルアに気持ち悪いと一蹴されてしまった。これさえなければキルアは本当に可愛いのに…!

50階に着いて、観覧席に座ると同時にキルアの名前が呼ばれた。

「あ、俺呼ばれたわ」
「いってらっしゃーい」

すたすたと観覧席からリングへ降りて行く後ろ姿をぼんやり眺めながら、下でキルアの対戦相手らしき男を見る。

「キルアって、やっぱり強いね!」
「うん、そうだね」
「ナマエちゃんも強いんでしょ?」
「私?……私は強くないよ。ここに来たのも修行だしね」

相変わらずきらきらした目をしているゴンくんは、真っ直ぐな目で私を見る。きっと、この子はこれからもすくすく育っていくんだろうなぁ……身体も力も念も。

「なのでお互い頑張ろう!ゴンくんはヒソカさんをぎゃふんと言わせるんでしょ?私それ見てみたい!」
「うん。絶対あのプレート返したいからね!」
「ゴンくんなら出来るよ」
「うん、そのための修行だしね!」
「ね!……痛ッ!」
「お前ら俺の試合全く見てなかっただろ?」
「キルア…!もう終わったの?」
「あったりまえだろ、一発だもん」

キルアはひらひらと得意げに右手を見せた。私だって…!落ち着いてやればこのくらい!このくらい!

「……いける!」
「ナマエ?呼ばれてっけど?」
「え?あ、はい!はい!いってくる!」

気持ちを集中!私だって手刀で一発集中!

やれば出来る子!
帰ってきたイルミをびっくりさせてやるんだから!


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