あー!ドキドキする!ハンター試験より緊張してる!
試合の申請を出したら3日後の午後からの試合にすぐ決まって、それまでの時間は確認も兼ねて、特訓進めた。
……けど、あっという間に当日になっちゃって、緊張に押し潰されそうな今に至ります。

「気分悪、……気持ち悪い」
「おい、大丈夫かよ」
「……キルア」

ふらふらと会場への道を歩けば、後ろからキルアに声をかけられた。こっちに向かうということは、私の試合見に来てくれるのかな?

「わざわざ見に行ってやるんだから、しっかりやれよ?」
「うん、頑張る……」

ゴンくんは試合の観戦も禁止されてるらしく、キルアだけ見に来てくれるらしい。じゃあ明日のヒソカさんの試合も見に行けないのかな……残念だろうなぁ。

「俺、ナマエに賭けたから勝ってくれよな」
「え!?わたしに賭けちゃったの?!」

ちょっと勝手に賭けないでよね、全く。でも相手の方が優勢だろうし、私に賭けた方が倍率高いんだろうなぁ。うん、それなら期待を裏切りたいところ!

「じゃあ私が買ったらそのお金でケーキ奢ってよね!」
「勝ったら考えてやるよ」

そう言ってキルアは含み笑いで親指を立てた。口ではそう言ったけど、頑張れよって事だ。つくづく私ってゾル家では甘やかされてるよなぁ。

「俺はラッキーだな、ちょうど3敗で後がなかったんだ。悪いがさっさとやらせてもらうぜ」
「お手柔らかに……」

場内アナウンスのお姉さんが紹介するに、対戦相手のこの人は現在6勝3敗。後1回でも負けると終わりの崖っぷちらしい。切羽詰まった人って、自分が持っている以上の力を出したりするから怖いなぁ。私ってばアンラッキー。

「おらおら……油断したら死ぬぜ?」
「ひぃっ…」

そう言うのとほぼ同時に、彼は口から赤い液体か何かを吐き出した。そのどろどろした液体は、床に落ちた瞬間に湯気と、異様な匂いが上がった。床、……溶けてる。まるで溶岩……マグマみたいだ。

「人に触れれば、簡単に皮膚どころか骨まで溶ける威力だぜ!」
「嫁入り前なのに、お嫁に行けなくなったらどうしてくれんの……」

さすが200階クラス……初っ端から念を使う訳なんだ。オーラをマグマみたいにしてるのかな?だとしたら変化系かな、この人。

「私も負けてらんないんだから!」

イルミの鋲に真似たピンをポケットから素早く取り出して、ダーツの様に構えて投げる。

「なんだ……、操作系か?!だが、その距離から投げても当たりなどしない!」

素早く投げたつもりだけど、さすが能力者。離れた距離から投げた私のピンはあっさり避けられてしまった。でも、それも狙い通り。
私の本当のピンは絶で隠して、わざと投げたピンと逆方向に、彼が避けてくるであろう位置に遅れて投げておいた。予想通りそれはばっちり足元に刺さってくれた。

「弱そうだからって甘く見ないでよね」
「は?何を言って、……ん?!」
「右足、動かないでしょう?」

こっそり投げたピンには痺れ効果のある毒を塗ってあるから、しばらく足は言うことを効かなくなると思う。その隙に、彼の背後に近づく。

「くそっ、何しやがった……?」
「ただ痺れ薬だよ?」

ばれないようにそっと相手にピンを刺す。ちくり、相手に刺した場所に痛みが走る。これは、制約。相手にばれないようにピンを刺す代わりに、痛みは私にくる。そんなに痛くないけど、やっぱりちょっと不快感。

「お前、いつの間に?!」
「ぎゃっ!」

背後に現れた私に向かって、マグマを吐かれる。とっさに避けるけど、腕にかかったそれは、熱くて時間差でじんじんと痛みが襲う。

「いった…い…!」
「はは!これからこんなものじゃ済まないぞ!」

血はでないけど、皮膚がただれてしまって、すごく痛い。結構やばいかも、この人……。場内は私の攻撃と彼の反撃に湧いて、熱気が昇る。盛り上がりに任せてマイクを通したアナウンスも興奮状態。

「え……?」

今なんて…?アナウンスの女の人が……言った。この対戦相手が勝つ=相手は死亡であると。はぁ?なにこの人!毎回殺してるわけ?!
うそ……、なんてこった!対戦相手のこと調べたってしょうがないとか思って調べなかったけど、……調べとけば良かった。後悔後にたたず。
少しかかっただけで、この威力のマグマ、……このまま何回も当てられたら死んじゃうかも。死んじゃうってゆうか、溶けちゃう。
ヤバい。私も本気出そう。あと3本。

「さぁ、最初だから油断したが、もうそういう訳にはいかない!」

片足は動かないはずなのに、こっちに迫ってくる。なんて、肉体持ってんのよ!でも、少なからず足を庇ってるのを狙って、私も本物とフェイクを投げる。
痛みがどうこう言ってる余裕もないし、隙を見て逃げるふりをしながら刺さないといけないなんて。あぁ、もうマグマはもう嫌!

「っ…!」

また当たった……。床から跳ねたのが、ふくらはぎに付いた。じんじんと焼けるような痛み。でもそれどころじゃない、こっちも刺さった……5秒以内に発動させないと、

「チェック」

制限時間ぎりぎりにそう唱えると、刺した4本のピンが姿を現す。

「なんだ?!これは…」
「チェック、って言ったでしょ?だから後1手で終わり」
「……終わりだと?」
「ぎゃっ…」

じゅくじゅくと、足と腕が疼く。さっきまでの痛みと違って、裂けるような鋭い痛みがして、自分の腕を見るとさっきまでの傷ではなく、骨が見え始めていた。

「お前こそ時間はないぞ……じわじわとマグマを浴びる度に傷の進行は進むのだ。例え小さい傷だとしても、5回かかれば最初に浴びた箇所は壊死し、消滅する!」
「うそ…」

煽るようなアナウンスで説明が入る。今までも、これで致命傷を与えて殺したらしい。怖い……。
このまま当たれば、最初に腕がなくなるってこと?無理無理、やだ!

そうこうしてる間に、彼はまた私に迫ってくる。ゆっくり歩いてこっちにくるのが、また恐怖を煽って額に汗が流れる。威圧感もすごい。
でも至近距離じゃなきゃ逃げれる……はず。そう思って、背後に回ろうと足を踏み出そうとした瞬間に、先ほどまでとは違う速度でまたマグマが私の肩を掠った。

「っ!いたっ…」

今までは結構な量をゴボッと出していたから油断していたけど、少量を素早く飛ばす事も出来るんだ。あと2回か……。もう1回当たれば後がなくなる。だから……、捨て身で行くなら今しかない。考えてる場合じゃないし、私の方はあと1回で良いんだ。
痛くない足で床を蹴る。具現化した最後のナイトのピンを握って、背後に回ろうとするフェイントをかけて正面に向かった。

「馬鹿か…」
「……!」

一瞬驚いた顔をしてからニヤリと笑って、また攻撃をしようとした……んだと思う。でも私の勝ち。

「チェックメイト」

唱えて頭の脳天にピンを刺せば、ゆらりと身体が傾きそのまま後ろに倒れた。……あ〜あ、結局殺しちゃった。それにしても、やっかいな能力の人。これって、この人死んだからって治らないんだ……。
彼の死亡が確認されて、私の勝ちが場内全体に伝えられると、歓声とブーイングが入り混じった。
でも、そんなことより今の私にはそれより腕の痛みがやばい。これ相当やばいよね?
自分の腕の状況を見ようと、腕に意識を向けようとしたところで、それを確認することなく、私の視界はいきなりフェードアウトした。

疲労と負傷、初勝利!


ALICE+