少しだけ脱落した人もいるみたいだけど、湿原まで出てきた。
……なんとゆうか、レオリオさんが大変な事になってたけど…それはまぁ、スルーしとこうかなぁ、と思う。

それにしても、なんか湿原って言うだけになんかじめじめしてる感じ。
やだなぁ、湿気で髪がうねっちゃうよ。イルミの直毛なら平気なんだろうなぁ、羨ましい。

「そいつはニセ者だ!試験官じゃない!俺が本当の試験官だ!」

ぼーっと湿原を見つめてると、汚らしい男の人が出てきた。……弱そう。もしこんな人が試験官だったら笑わせるよね。
受験生達は惑わされたのか、ざわざわと騒ぎ出して。え、みんな馬鹿なの?

−ヒュッ

一瞬殺気がしたのち、もの凄い早さで何かが飛んで来て、それを咄嗟に避けた。
……トランプ?ってさっきヒソカさんが持ってた、やつよね?こ、怖!
飛んで来た物がトランプだとなると、十中八九ヒソカさんが犯人と言う事で。もう少し避けるのが遅かったら、あの男の人と同じ様な姿になっていたかと思うと恐ろしい。

……やっぱりイルミの友達だけあるんだなぁ、と思うと同時に私なんかが及ぶ人ではないから極限逆らわずにしないとヤバイなぁ。
なんて思ってると、受験生集団が動き出した。
湿原は危ないらしく、しっかり着いて行かないと駄目みたいだから集団に紛れて走ろう。
キルアやクラピカさん達はどこに行っちゃったのかな。こんな時こそ一緒にいてくれれば良いのに、キルアってば薄情者……!

何で好き好んで1人で体格だけは良さそうな人達に紛れて、こんなぬかるみを走らなきゃならないんだろう……って虚しくなってると、さっきとは比べ物にならない殺気がしてきて、思わず一瞬鳥肌がたった。
ヒソカさん……殺したくて殺したくて堪らないって感じじゃない?これやばいやつじゃ?

「レオリオー!クラピカー!ナマエちゃーん!キルアが前に来た方が良いってさー!」

そんなゴンくんの声が前から聞こえてきたから、キルアも私と同じように感じてるんじゃないかな。キルア達の位置(とクラピカさん達の位置)も声で大体分かったから、そっちへ行こうと加速しようとすると、ぐいっと腕を引っ張られる。

「イル……じゃなくてギタラクル!」

腕を引っ張った犯人はイルミもとい、今はギタラクル。ほら、さっき思った通り、この湿気の中でも綺麗な漆黒の髪は乱れる事がない……ん?
あれ?よくよく見れば彼の姿はギタラクルではなくてイルミ。

「なんでイルミの姿?」
「こっちの方が楽だから。霧で誰も分かんないし」
「キルアは大丈夫なの?」
「俺がそんなヘマすると思うの?」
「……いえ、思いません。」

とりあえず、やっぱりこっちの恰好の方が好きだなぁ、と実感。ギタラクルはなんか生理的に受け付けたくない見た目だもん。

「それよりさ、ヒソカに近づいたら刺すからね」
「……え?」

ふと思い出した様に爽やかに、でも物騒な台詞を言う我が婚約者。

「あいつ危ないから、ナマエなんか色んな意味でヤられるよ」
「………」

い、色んな意味で、って……どんな意味なわけ、って言いかけて寸前で止める。怖すぎる。
てゆうか、刺すって言うイルミは本当に刺すからそう言った意味ではこの人も怖い。

「分かった、気をつける。でもヒソカさんてイルミの友達なんじゃないの?」
「友達?そんな訳ないじゃん、気持ち悪い」

……この人今気持ち悪いって言ったよ。素で言った。ちょっとだけヒソカさんに同情しちゃうよ、ちょっとだけね。

「いや、でも知り合いなんでしょ?」
「仕事の関係で知り合いなだけ。俺友達いないし、ってゆうかいらないし」
「んー……でも、っきゃ?!」

よそ見をしていると、ぬかるみに足を取られて、コケそうになった所を、ヒョイっとイルミが抱えてくれたおかげで、土だらけになるのを免れた。た、助かった。

「……あぶなかった。ありがと、イルミ」
「ナマエは、いつも危なっかしいからね。たまには目を離せないこっちの身にもなってよね」

お小言を呟きながら、そのまま小脇に私を抱えたまま走りだすイルミ。

「え、ちょ、っと!私は持ち物じゃないんですけど…!?」
「でも俺のモノだし」
「いや、まぁ、……そうだけどさ。そういう意味じゃなくて……なのに。まあいいけど」
「………」
「イルミ?」
「なんか今日のナマエは素直だね。その方が可愛いよ」

カァァ、と自分の頬が熱くなるのを感じて、なんだか恥ずかしい。

「……だって、イルミと一緒にいれないからちょっと心細かったんだもん」
「うん、そう」

脇から見上げるイルミの表情は相変わらず無表情だけど、声だけは嬉しそうに聞こえたので、私も嬉しい気持ちになった。

「ねえ、ところで、私はいつまで抱えられてるの?」
「会場までじゃない?」
「まじで?」
「うん」

いや、楽っちゃー楽な訳なんだけど、私走れるよ?とゆうか、恥ずかしいよ?それに……重たいし?(いやデブではないとは思うんだけどさ)
……でもまぁ、イルミの事だから何言っても無駄だし黙って抱えられといた方がいいのかもしれない。

「ね、イルミ?」
「なに?下ろさないよ」
「それはもう諦めたんだけどさ」
「うん、」
「後ろから断末魔みたいな声が聞こえない?」
「聞こえるね」
「あれって…、」
「ヒソカだね。遊ぶって言ってたし」
「………」

やっぱりヒソカさんて危ない……。さっきだってさりげなく、私にもトランプ投げてたし、イルミの言う通り近付かない方が身のためかもしれない。

「どうしたの?」
「ううん、ヒソカさんに殺されたら困るからイルミの言う通りに近付かないでおこう、って思って」
「……そう」
「それに、イルミに刺されるのも嫌だし」
「そうだね、冗談じゃないしね」

一定のスピードを保って走っていたイルミが少しずつ減速し始めて、止まったところで下ろされる。

「イルミ?」
「ナマエは、俺のだから他の男に近付くなんて許さないから」

向き合う形で地面に立たされて、頬を両手で包まれ言われた言葉は甘すぎて苦しい。
この人は時々……いや、よく考えれば結構こういった発言をさらりと、表情を変えずに言ってしまうから厄介。いつまで経っても免疫が出来る事はなくて、いつでも紅くなる私の顔を見ては、それを楽しんでいるんだ。

「イル、ミ、恥ずかし……い」

ほてった頬には、イルミの冷たい手が心地良くて。だけど恥ずかしさからその手を離しても欲しくて。

「ナマエ、可愛い」

そう言って、イルミは私の頬に添えてある右手を顎に移動させて。ドキドキ、と私の心臓は早く脈打つ。

「……んっ」

深いようで軽いキス。表情も言葉も、普通より乏しい彼の愛情表現。

「さ、行くよ」
「うん」

すぐに走り出したイルミの後を追う。
もうゴールの近くまで来てたみたいで、イルミは走りながらブスブスと鋲を刺してギタラクルに戻っていった。

ナマエは俺の事だけ考えてれば良い

「ねぇイルミ、でもヒソカさんと電話なんかしちゃってやっぱり友達なんじゃないの?」
「違うって。しつこいなぁ」

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