2次試験前半 「豚の丸焼き」

2次試験の内容は料理。
だけど、丸焼きって……ちゃんとした料理って言っていいのかなぁ、とか考えながら呑気に森に入ったのが間違いだった。

「たーすーけーてー!」

こんな大きな豚だなんて聞いてないよー!無理無理無理!
1次試験より疲れるんじゃないかと思う位、全力疾走で丸焼きになるはずの豚と鬼ごっこして早10分。終わりの見えない鬼ごっこに嫌気がさしてきた。もし、終わりがあるとしたら踏み潰されるときかもしれない。
……それは嫌だけど、どう戦えば良いのかも全然分からないし、それ以前に今立ち止まれば間違いなく後ろの豚さんの足の裏が上から落ちてくる。…と、なるとやっぱり逃げるしかないって事だよ、どうしよう!

「うわーん!誰か助けてー!」

本日2回目の叫びも虚しく空に響いたけど、なんの反応もなく終わっ(てしまっ)た。
あぁ、私が立ち止まった時、私の命も止まるんだな……。

「きゃっ!

そんな事を思った矢先に、見事に小さな石に躓いてバランスを崩す。咄嗟に目を強く閉じて転んだ衝撃を待ったけれど、痛みは何も襲ってこなくて。
恐る恐る目を開けると、そこにはトランプが刺さったまま倒れた豚と薄ら笑いを浮かべて私の腰を掴んでるヒソカさんが立ってた。

「ひぃ!ヒソカさ、ん…」
「ナマエったらこんな豚くらい、倒せなきゃ駄目だろ◆」
「ご、ごめんなさい」

思わず謝ってしまった。なんと言うか、この人は本当にマイペースすぎやしないですか?
とりあえず、ずっとヒソカさんに支えられた状態のままでいる訳にもいかないのから、自分で立とうと体をよじってみる、けど全く微動だにしない。

「あの、ヒソカさん?」
「なんだい◇」
「ち、近いです…!」

彼の腕から抜けるために体を動かしたはずなのに、すり抜けれるどころか、先ほど以上にヒソカさんの顔が近くなる。心なしか、腰に回る腕の力がさらに強くなってる

「照れてるナマエも美味しそうだよ」
「冗談言ってないで、離して下さいよ……」
「クックック…◆食べちゃおうかな☆」
「……っ!」
「ん〜◆」

ゆっくり顔を近付けてくるヒソカさん。力が強すぎて腕を抜ける事も出来なくて、悪あがきに顔を少し背けるのが精一杯。

「た、助けてイルミー!」

そう叫んだと、ほぼ同時だった。あと数cmくらいに迫った私とヒソカさん隙間を鋲が通り抜けた。

「……ねぇ、呼ぶの遅すぎなんだけど」

その瞬間に、イルミの隠されていた殺気を溢れんばかりに宛てられて苦しくなる。助けに現れてくれて、すごく嬉しいはずなのに発せられた殺気からして喜べない。これは、すごく怒ってる……やばい!

「ご、ごめんなさい…!」
「駄目。許さない」
『……イルミ』

本当に怒ったイルミは怖い。収拾がつかなくなるくらいに。だからイルミを怒らせてはならない、のに。

「ヒソカ、」
「なんだい?」
「ナマエに何しようとした?俺本当にキレちゃうけど、」
「それはそれは、怖い◆」

そんなに呑気に会話してる場合じゃないのにヒソカさんは私を放さないままイルミとの会話を続ける。これ以上イルミを怒らせたくなくて、一刻も早く放して欲しい私とは違って、さして気にしてないみたいだ。

「ねぇ、ヒソカさん!もう放してください!」
「……しょうがないね」

本当に残念そうなのか分からない顔と声色でようやくヒソカさんが放してくれる。イルミが来てくれなかったら、ずっとこのままだったのかもしれない。危ないというより本当何考えてるんだ、この人は!
地面に降ろされて、すぐイルミに駆け寄るけれど、殺気は依然出されたまま。

「本当に君とナマエは面白いね★じゃ、またあとで」

それだけ言って素早くヒソカさんは消えた。出来ればもう関わりたくないんだけど、そういうわけにも行かなそうだ。イルミの嫌がる、怒る事を極限しないのが私の中でのルールだけど、ヒソカさんに勝てる気がしないから逃げるのも難しそうだなぁ。

「ナマエ」
「な、なんですか…?」

絶対お仕置きか何かされる…!そう思うと声が上擦ってしまった。怒られる、

「馬鹿」
「……へ?」
「ヒソカに近付くなって言ったでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「何かされる前で良かった」

私を抱き寄せて肩にコテン、と頭を置いたイルミ。それは予想外の反応で、怒られると思っていたのに拍子抜けしてしまう。殺気もいつの間にか無くなってる。

『イルミ、』
「俺、ナマエに何かあったらキレるくらいじゃ済まないからね」

そう言ってぎゅう、と強く強く抱きしめらて。そっとあたしも抱きしめ返す。

『……イルミが甘えるの珍しいね』
「うるさいよ」

俺ってかなりナマエに溺れてる、
あぁ、本当にヒソカ……ムカつく。


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