2次試験後半 「スシ」

スシ?なにそれ?
2次試験の後半はスシって言う物らしいけど、初めて聞く名前で全然分からないし想像もつかない。

「私、お手上げー」

イルミに聞こうにも、受験生全員が集ったこの空間では話し掛けるわけにもいなくて、ゴンくん達の側に行ってみる。

「酢と調味料をまぜた飯に新鮮な魚肉を加えた料理…、のはずだ」
「魚ぁ?!」

そうレオリオさんが叫んだ瞬間に周りの受験生達が一斉に外へ走り出す。

「スシには魚を使うんだ?」
「あぁ、私も実際に見た事はないんだが」

そっかぁ……お魚かぁ。あとお酢、……マリネみたいな感じかな?いやでも、ご飯も使うんだし、想像付かないや。とりあえず私も魚を捕ってきてから考えようかなぁ。
他の皆とは少し遅れて川に向かうと、沢山の受験生が潜ったり特製の釣竿で釣りをしていた。う〜ん……なんだか難しそう。一応温室育ちに近くて、キキョウさんに可愛がられて育って来たから魚を釣った事も無ければ、捕まえた事もない。

「ん〜、30分やって捕れなかったら違う方法を考える……かな、うん」

とりあえず、やってみないと始まらないからと思って履いていたブーツを脱いで川へ飛び込もうと川淵へ立つ。
それではいざ川へ!

「何やってるんだい◆」
「ひぃぃいぃ!」

飛び込もうと意気込んだ瞬間に肩に掛かった重さは関わりたくない人No.1に輝くピエロ風のあの人の手。何故こうもこの人はタイミング良く現れるんだろう。

「ヒ、ヒソカさん……」
「ナマエったら、そのまま飛び込むつもりだったのかい?」
「え、そうですけど」
「そんな事したら透けちゃってイルミが怒るんじゃないかい?」
「……あ、そっか」

下着が透けるとかは全く考えてなかったや。ヒソカさんがまともなこと言うだなんて変な感じ。そんな失礼な事を考えていると、ヒソカさんはにっこり笑ってピチピチとまだ動いてる魚を差し出してきた。

「あげるよ◇」
「……ほ、本当に?」
「ほ ん と」
「わ〜!すごくありがたいけど、なんで?」
「沢山捕れたし、さっきのおわび◆」

それにイルミに殺気出されちゃうと興奮して試験どころじゃなくなるんだ、って嬉しそうに言うヒソカさんはちょっぴり、とゆうか、かなり危ない。
だけど、確かにびちゃびちゃになって下着透けてようものならイルミは怒りそうだし、実際魚を自力で捕る自信もなかったから有り難くヒソカさんがくれた魚を受け取った。

「ナマエちゃん!遅かったねー!」

試験会場に戻るとゴンくんが駆け寄って来てくれて、私が調理する場所を作ってくれた。

「ゴンくんありがとう」
「どういたしまして!」

すぐそのまま調理に戻ったゴンくんの方を見ると、もうすぐ出来そうなのかお皿に盛り付けていた。

「よし!じゃあ俺出してくる!」
「頑張ってね」
「うん、ありがと!」

そう言って元気よくゴンくんは、スシを乗せたお皿を抱えて試験官のいる方へ走って行った。
私も頑張らなきゃ、……と魚に目を向けてみると生臭さが鼻についてちょっと気持ち悪くなってきた。

「あ」
「……どうしたのだ?」
「クラピカさん?だ、大丈夫?」

声を掛けてきたクラピカさんは、酷く重い顔していて落ち込んでいる様に見える。

「いや、大丈夫だよ。それよりどうにかしたのか?」
「あ、うん。あのね……私、魚なんて捌けなかったの』

いざ、捌こうとするまで気付かないと言うのも馬鹿な話なんだけれど、料理なんてほとんどした事もなければ、出来ないんだ。キキョウさんがやらせてくれなかったとも言うけど。
どうしよう、と溜息をつくと試験官のお姉さんの怒鳴り声が会場に轟いた。
スキンヘッドのお兄さんがスシの作り方を皆にバラしてしまった上に、スシ軽んじたのがお姉さんのカンに障ったみたいで、すごい剣幕で怒鳴られてる。

そこからの展開は早くて、作り方が分かってしまった受験生は、みんなスシを持って並び始めた。けど、お姉さんが頷くことはなく、そのまま受験生のスシを一周食べ終わる前にお腹いっぱいになってしまったらしい。
もちろん私は魚を捌けもしないので、その20分もしない間の出来事を茫然とただ見ているだけで終わってしまったのだけど。

「これみんな落ちちゃったんだよね?」

受験生全員が合格者0と言う事に納得いかないと、ざわめく中でそっとギタラクルなイルミに近付いて、服を少しだけ引っ張る。

「そうみたいだね。ハンターライセンス無いと困るんだけどなぁ…」
「どうする?帰る?」
「……ちょっと待って」

*


「……ここから飛び降りるの…?」
「うん!」

突然気球から現れたおじいさん、もとい会長さんのおかげでもう1度行われることになった2次試験後半。連れて来られた崖の上でゴンくんは笑顔で頷いた。仕切り直してくれるのは有難いけれど、……それが飛び降りだなんて!自慢じゃないけど高い所は苦手なのに!
イルミも皆が集まってるから離れてるし、もうなんか無理そうな気がしてきた。

『わ、わたし辞退し…」
「ナマエちゃん行くよ!」
「え?えぇぇえぇぇぇぇ!!」

あ、あ、あああ!わ、わわわわたし落ちてるぅぅ!
ゴンくんに腕を掴まれて、そのままゴンくんと共に崖から落ちていく。

『ゴンぐーん!無理無理無理!あたしこのまま落ちて死ぬ!』

半泣き……否、本気泣きでゴンに訴えるのとほぼ同時に、目的である綱状の鳥の巣に私の腕を掴んだままの手とは反対の手でゴンが華麗に*まった。
……た、助かった。
この歳になって外で本気で泣くなんて恥ずかしいけど、今はそれどころじゃなくて、寧ろちびらなくて良かったとか思っちゃう勢いだ。

「ごめんね!高い所苦手だなんて知らなくて……」

目的の卵を取りながら、申し訳なさそうにゴンくんが謝ってくれる。

「ううん、こっちこそ助けてくれてありがとう。それに諦めかけたけど、ゴンくんのおかで2次試験は受かれそうだよ」

怖かったけど、ゴンくんが引っ張ってくれなかったら本当に諦めてしまってたと思う。……そう思うと逆に感謝したいくらいだ。

「……本当に?」
「うん、本当」
「良かった!」

じゃあ、戻ろうか!って笑うゴンくんに思わず頷いてしまったけれど、この崖を登らなきゃいけないと言う事に気付いたところで本日2度目の絶望感が襲ってきた。


……俺の出番なかったんだけど。


「これ……登る時に落ちちゃわない?」
「大丈夫大丈夫!頑張って!」


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