団長との仕事も思ったより早く終わったし、ナマエたちももう戻ってるだろうし早く帰ろう。そう思ってた。


「どういうこと?」

それしか言葉が出なかった。ウボーが一緒じゃなかったことも、ナマエが攫われたことも、どういうことか分からない。
なんでこんなことになったのか、混乱した頭を巡らすけれど、答えなんて出そうにない。

「ごめん……私のせいだ」
「マチ……」
「マチのせいではないだろう。今回の件は、盗みとは別にナマエは狙われていたと考えるのが妥当だ。そうじゃなければ、ナマエを誘拐するはずがない」
「犯人は、ナマエの眼を狙ったってこと…?」
「俺はそう考える」

声が震える。自分はもっと冷静な人間だと思っていた。こんな不測の状況でも、ある程度は動けるし、考えれると。なのに、こんなに脆いだなんて少し前までの驕っていた自分を嘲笑いたいくらいだ。

「これはまだ憶測だが……ナマエを狙った奴は来月行われる闇オークションでメイデンピンクの眼を競りにかけるつもりかもしれない」
「それどういうこと?」
「以前から、ナマエの眼が狙われているようだったからな。少し調べていたんだ。まだ確信ではないが、怪しい奴はいる」
「教えて」

そう慌てるな、団長の眼がそう言ったけど、焦りはどうしようもない。それを見越してか、団長はゆっくり腰掛けてから自分も整理してるかのように話しだした。

*

気がつくと、見たことのない部屋にいた。
昔を思いださせるような無機質な部屋は、頑丈そうな扉と蛍光灯と監視カメラがあるだけ。まるで、昔の私に戻ったみたい。
なんでこんなに事になったんだっけ……、重たい頭を抱えて思い出そうとするけど、マチさんに名前を呼ばれたところで記憶が飛んでる。
あの気味が悪い笑い方のあの男の人の念のせいなのか、あのあと私はどうなってここに連れて来られたのか、全く分からない。
シャル、きっと心配してる。無事だよって連絡だけでも出来たらなぁ…、ケータイが入っていたはずのポケットに手を入れてみるけど、案の定それは入っていなくて。
落としたんだろうか、それとも盗られたのか。シャルお手製のケータイは機能的で気に入っていたのに。シャルに謝らなくちゃ。

……なんて、そんな呑気な事を考えている場合じゃないか。私、捕らえられてるのに。しかも人生で最大の危険な監禁かもしれないのに。
殺されたり…しないよね? やっぱりこの眼なのかな……それくらいしか私の価値ってないし。

「ねぇ、君の眼ってどうやったら現れるんだい?」
「っ?!」

なんで……、この部屋には入口は一つしかないのに…どこから、

「どこから入ってきたの、って思ってる? さぁ、どこから入ったんでしょうね? 君が眼の秘密を教えてくれたら、僕も教えてあげてもいいかなぁ」

そうだ、この人……急に現れた。一瞬にして姿を現したんだ。その瞬間までいなかったはずなのに、まるで瞬間移動みたいに。これがこの人の能力。
落ち着け、落ち着け。今この狭い空間で戦うことは不利なんだから、どうしたら一番いいかを考えなくちゃ…シャルだったらこんな時どうするか、シャルだったら、きっとこんな時でも笑って、言うんだ。大丈夫だよって、

「ねぇ……黙ってないで何か言ってほしいんだけど? 君、自分の置かれてる状況わかってるの?」
「私の眼が欲しくて、連れてきたんですよ、ね」
「うん、そうそう。実際は僕が、じゃなくて頼まれたんだけど、興味がないって言ったら嘘になるしね」
「……雇われてるってことですか?」
「そういうこと。君の質問に答えたんだし、僕の質問にも答えてよ。名前は?」
「ナマエ……」
「そう、僕はキール。よろしくナマエ」

まただ。意識を失う前に見たのと同じ顔。綺麗なまでに弧を描く唇。この人が浮かべる妖しい笑顔は、上手く言い表せないけれど、すごく恐い。

お願いだから近づかないで
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