彼女と最後に会ったのは、まだ寒い冬の季節だったと思う。夏の終わりにウボォーとパクノダが死んで、皆で暴れて。
それから少し経って、ウボォーの私物らしき物を見つけて。そして、彼女に出会った。彼女は隠したそうだったから、それ以上こちらから触れることはしなかったけど、妊娠してるようだった。時期から言って父親は間違いないだろう。彼女と別れて、ホームへ帰って1人になってから、ウボォーが知ったら、どんな顔をするんだろうかと想像したところで、視界が歪んだことを鮮明に覚えてる。ウボォーが死んでから、後にも先にも泣いたのはこの時だけだった。

悲しいとか、悔しいとか、そんな簡単に言い表せる感情でなかったことだけは確かで、今でも思い出すと涙は出なくとも、胸が痛む。団員の中で、最期にウボォーに会ったのは俺だった。1人で大丈夫だと、俺もウボォーも思っていた。その判断がおかしかったとは思わないし、もし俺以外のメンバーでも同じように見送っただろうと思う。だから、俺が後悔したってウボォーは喜ばないし、戻っては来ない。死ぬほど後悔して、あいつが戻ってくるというのなら話は別だけど。
それでも、俺なりにもう少し出来ることがあったのではないか、とか。性に似合わず感傷に浸りそうになる瞬間は不意に襲ってくることがあった。そんな時に見つけた、ウボォーには似ても似つかぬ綺麗な包装紙の箱。今になって思えば、俺の中に残留していた罪悪感にも似た感情は、彼女が由来するものなのかもしれない。俺は、ウボォーがまだ居た時に、名も顔も知らぬ彼女の存在を感じていたはずなのに、無意識にその存在を忘れていた。いや、思い出したくなくて、蓋をした。蓋をして、忘れているはずなのに、忘れた罪悪感だけは残ったかのように俺の中に蔓延って、ずっと拭えないでいた。そして、あいつの、最初で最後の後悔を見つけた時に、少しだけその蔓延った錆が剥がれた気がした。俺の、最初で最後の罪滅ぼしができると。
でも、余計なことするなってウボォーに怒られちゃうかな?なんて、柄にもなく少し考えたけど、それは杞憂だった。彼女が包みを開けた箱の中には綺麗な指輪が入っていて、驚いたのは其の物ではなく、丁寧に保証書が付いていたことだった。それが何を意味するかは、彼女は気付いたのだろうか。
俺達盗賊は、欲しい物を盗む。だからこそ、ウボォーにとって彼女はそれほどの存在だったと、暗に意味する。そんな、彼女を置いていった。俺には、それがどんな気持ちだったかなんて、想像することくらいしか出来ないけれど、それでも、俺を涙させるには充分だった。

「馬鹿だなぁ、ウボォー……」

彼女は、今、どうしてるだろうか。まだ生まれる時期には少し早いとは思うが、赤子というのは分からないもの。ちゃんと大きなお腹を抱えているだろうか。性別はどっちなのか。生活には困ってないだろうか。ウボォーは、俺と違ってお金なんて持っていなかったはずだから。でも、それを知ることは容易いけれど、俺が行動に移すことは、なかった。生活に困っているとしたら、それを匿名で援助することだって出来た。彼女の赤子の顔を見たくないと言えば嘘になることも知っていた。彼女達の行末が気になっていた。

それでも。
それをしなかったのは、彼女達の世界に俺達のような存在は要らないから。今も、これからも、普通の世界で、普通の日常で、生きていく方が良い。危ないこちらの境界線からは出来るだけ遠い方が良い。俺達のように汚い世界で生きていくことが強いられない世界で、流星街になんか捨てられない世界で、どうか生きてほしい。ウボォーが聞いたら、もうちょっと気にかけてやれ、って怒るかもしれないけど。こうやって、たまに君を思い出すのと一緒に2人のことも考えるから、許して。


ばいばい、ウボォー。
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