01

出先から帰ってくると、ホームでは面白い事が起きていた。
否、面白い少女いたという表現の方が適切だろうか。

「止めてよ!痛い!」
「動かないで」
「なんなの!?」
「その女がどうかしたのか?」

見慣れた顔の中に1人じたばたと暴れている女が紛れていた。念も使えないような顔をして、力でも強いのかパクノダとマチが2人がかりで抑え付けている。一般人に手を焼くなんて珍しい。深く考えずにその辺に無造作に置いてある椅子に腰かけて、帰りに買ったプリンを1つ取り出す。前から気になっていたそのプリンは、黄身に近い濃い黄色で容器越しに見えるつやつやした表面が美味しそうだ。箱の中にズレないように固定されたスプーンを1つ手に取り、まずひと口、口へ運んだ。

「団長、こいつ怪しいよ。私の念糸も効かないし」
「……どういうことだ?」
「念糸で縛ってやろうと思ったのに、こいつの身体だけすり抜けるんだ。だから念能力者かと思ったけど、見ての通りの形(なり)してるし」
「それで私が見ようと思ったんだけど……それも駄目」
「……お前名前は?」
「これ今答える様な状況じゃないんですけど?!…いたたたた!ナマエ!ナマエって言いますー!」
「ナマエ、お前には何故念が使えない?」
「知らないよ!そもそも私はね、念は習ったけど全く使えなかった落ちこぼれだし!」
「……そうか。プリン食うか?」
「は?」
「いらないのか?」
「貰えるなら……いるけど」
「ほら、やるからこい。マチ放してやれ」
「まったく団長の気まぐれも困ったもんだね」

マチから開放されてこちらへ来たナマエは、受け取ったプリンを見て目を輝かせた。知ってるのかと問えば、ここのは超絶美味しいの!と笑った。……普通の人間ならば、プリンなんかより命が欲しいと真っ先に逃げようと試みると思うが、やっぱり中々面白い。もしかしたら隠しているだけで、なんらかの能力者かもしれない。そうであればこの余裕な態度も納得だ。

「うまいか?」
「めっちゃくちゃ!美味し〜い!」
「そうか。じゃあ暫くここに住めよ」
「うん!……え?」
「逃げ出したら殺す」

俺はもう1つプリンを取り出してまたひと口頬張る。ナマエはスプーンを持って固まったままだ。プリンはまだ口をつけていない。どう見ても強そうには見えないこの少女、暫く手元に置いてみるか。……新しい暇つぶしが出来たな。自分しか気づかない程度だが、無意識に口角が上がったのを感じながらカラメル部分を口に運んだ。


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