02

今日はきっと厄日だ。

誘拐されるわ、後から現れたイケメンのお兄さんは良い人かと思ったら、助けるどころか逃げたら殺す?私もとうとう頭おかしくなっちゃったとか?そもそも、こんな廃墟にこの人が住んでる?そんなバカな。もうこれ夢でしょ。

「で、お前は念が効かない能力じゃないのか?」
「だからこれは私の夢の中の幻影と幻聴であって、よってここの人たちは実在しない」
「……」
「いだだだだ……!痛ーいー!」
「夢でも幻聴でもなく現実だぞ」

そう言いながら真顔で頬を抓るイケメンのお兄さん、もとい鬼畜変態男。でも、痛いと感じるということはやっぱりこれは現実なのか。信じたくはないけれど、いつの間にか増えてる人も実在の人物ってこと……?っていうか、人と言って良いのか怪しい人もいるんだけど。ここ怪物か妖怪ハウスとかなわけ? あぁ……本当にこれ夢であってほしかったよ。

「ねぇ、あの人達ってさ……」
「ああ、紹介してやろうか」
「いや、ちがう、いらない、というか色々追いついてないから待って」

人の話を聞かないこの鬼畜男は、おもむろに立ち上がると散らばって好きなことをしていた人達を呼び集めて、簡単な紹介を始めた。一気に紹介されても、物覚えがすこぶる悪い私に覚えきることなんて無理に等しいし、そもそも頼んでもないのに勝手に始めないでほしい。10人以上なんて普通の人でも簡単なことじゃないでしょうよ?

「お前も自己紹介しろ」
「え?!わたし?え、えっと……ナマエです。多分誰かに殴られて気を失ってる間にここに居ました。逃げたら殺されちゃうらしいので、しばらくお世話にならなきゃいけないみたいです」
「……あんた気付いたらここにいたんじゃないか。自分で来たんじゃないのかい?」
「え?違いますよ〜!家を出てスーパーへ向かったところまでは覚えてるんですけど、途中で後頭部に殴られたみたいな痛みが襲って意識を失ったんです。それで気付いたらここだったんです!」
「私らにしたら、あんたが突然現れたようにしか見えなかったよ」
「えぇ、だから忍びこんできたのかと」

え、じゃあここの人たちが私をここに連れてきた訳じゃないってこと?今日は意味の分からないことばっかり。

「それは興味深いな。だがパクの能力が使えないというのは、少し面倒だな」
「ともかく、私はここに忍びこんだりした訳じゃないからね?!そこんとこはよろしく!っていうか、誤解が解けたなら私帰っても良いんじゃない?」
「駄目だ。お前が忍びこんだか、連れてこられたかは重要じゃない」
「……なにがしたいのよ」
「さあな」
「もう、分かった分かった。とりあえずここにいれば良いんでしょ。……とりあえず1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「名前は?1人だけ名乗ってないでしょ」
「ああ、そうか。忘れていた。俺はクロロ=ルシルフル」
「クロロね、」
「そうだ」

ひとまずクロロだけ覚えておけばどうにかなるだろう。残りの人は……おいおいで。団長って呼ばれてたしどういう集団なのかは知らないけれど、リーダーっぽいし、この人の許可さえ出れば多分解放されるだろうから、もしかしたら他の人なんて名前覚えるまでもないかもしれないし。

「とりあえず、みなさんよろしくお願いします……」
「かったぐるしい奴だな、そんな気色悪い敬語いらねぇよ!お前念が効かねぇなんておもしれぇな、俺は気にいったぜ!」

そう言っていきなり目の前まで近付いて、頭をぐっしゃぐっしゃにほぼ鷲掴みされた。なにこの巨人さん!?驚きすぎて言葉が出てこなくて茫然としてしまう。だって、こんな撫でるという域じゃない撫で方をする人なんていないでしょ?そもそも本当に巨人みたいじゃん……こんな大きい人初めて見たよ。……って、このままじゃ首がどうにかなっちゃう!ってくらいの痛みが襲ってきた。た、助けて!

「痛い痛い痛い!」
「あ?あぁ、わりぃわりぃ」
「それに念が効かない?って、どういうことですか」

じんじんする首を摩りながら、さりげなく巨人さんから少し距離を置く。念が効かない、ってなんの話してるのって話だよ。さっきも念なんて使えないって言ったばっかじゃんか、この人たち人の話を聞かないタイプなのかな!

「そういえば念を習ったと言ってたが、無効化の類いの念じゃないのか」
「だから、習ってみたけど全く!使えなかったの!才能皆無すぎて師匠にも諦められちゃったし、まぁ凡人は凡人ってことよ」
「そうか。じゃあまずお前は生身の強化からだな」

そうそう、生身の強化から……って、え?

「はい……?」
「念が効かないのは興味深いがどう見ても生身は一般人かそれ以下だ。念以前に簡単に殺されるぞ」

は?え?何言ってらっしゃるのこの人?殺されるぞ、って殺すとか言ってるのはあんたでしょうよ。そんな事言ったら念能力者以外みんな当て嵌まるじゃん!

「そういうことなら俺の出番だな!お前も俺みたいな筋肉質にしてやるぜ!覚悟しろ!」
「いたたたた!」

再び巨人さんが私の頭をぐりぐりと撫で回しながらガハハハ、と豪快に笑う。嫌な予感しかしない。



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