07
「ねえ、新開くんとどうなの?」
移動教室中、唐突に聞かれて間抜けな声が出た。どう、とはどういうこと?と聞き返せば勝手に納得したみたいで、分かったを2回繰り返されて、焦る。
「あの、何もないからね?」
「へぇ……言えないようなこと?」
「だから、違うんだってば」
否定してるのに、それを深読みしてか含みのある笑みを浮かべて頷かれた。本当に"何か"あったとかは無い訳だし、どう?と聞かれても何もないと答えるのは決して嘘ではないはず。ただ、友達以上ではあるとは思ってるけれど。それ以上でもそれ以下でもない。私はこの関係に甘んじてるし、新開からも何かアクションがある訳でもない、だからずっとこのまま。そう正直に答えれば、そんな呑気なこと言ってる間に盗られちゃっても知らないからね!なんて結構真面目な顔で言われた。
盗られちゃう、かぁ。考えたことない訳ではないけど、あんまり想像がつかない。新開に彼女が出来ることに想像が付かないというより、今みたいな関係じゃなくなることが、だけど。でもきっと、本当に彼女なんて出来ちゃったら私は邪魔な存在だろうし、気安く話すことも出来なくなると思う。それは、その彼女が許す許さないじゃなくて、私が辛いから無理という意味で。
「まぁ、駄目だった時は慰めてあげる」
「駄目だった時って……縁起の悪いこと言わないでよ」
「何の縁起が悪いって?」
「……え?」
階段を降りようとした所ですぐ真後ろ、それもすぐ傍で聞き慣れた声がして心臓が飛び上がる。咄嗟に振り向こうと、一歩足を踏み込ませたつもりだったのに思っていた位置で足が床に触れなくて、やばい、って文字が頭を過った。こういう時って何故かスローモーションみたいに一瞬が長く感じるって本当だったんだなぁ、なんて呑気なことを考えながら、襲ってくるであろう痛みに備えてギュッと目を瞑った。
「……あれ?」
「あっぶないな、おい」
「な、ななななんで」
間抜けにも階段から落ちる、そう思ったのに実際には落ちた痛みが襲うことはなく、腹部に鈍い痛みに近いものを感じただけだった。自分が置かれた状況を理解して、最初に思うことがダイエットしとけば良かった……な、あたり私らしいけど、じわじわと羞恥心がこみ上げると同時に顔も熱くなっていく。
「急に声掛けて悪かったけど足踏み外すなんて、もっと気をつけろよ」
「だ、って新開のせいじゃん……」
「まぁ、そうとも言える」
知ってるつもりではいたけど、実際に触れるのと見るのでは全然違って、引き締まった筋肉の付いた腕は想像以上にしっかりしていてドキドキする。肌と肌、直接ではないのに布越しに触れている部分が熱いような気もするし、無意識にお腹に力が入ってるあたり、こんな時でも恋する乙女の性というのは我ながらすごいと思う。
「……あの、新開?」
「ん?なんだ?」
「そろそろ離してくれない?」
「あぁ、悪い……」
そう言いながら念のためなのか一歩下がってから、ようやく腰に回っていた腕が離された。改めてお礼を言おうと振り返ると、予想以上に顔が近くて思わず後退ってしまいそうになった所で今度は腕を掴まれて引っ張られた。
「おいおい、何やってるんだ」
「ご、ごめん……ありがとう」
この短時間に2度も落ちそうになるなんて、間抜けすぎる。もちろんそう思ったのは私だけではないようで、呆れたような声が脇から聞こえて、そういえば2人だけじゃなかったんだったと思いだす。おそるおそる彼女の顔を覗きこめば、にやにやと含み笑いをした顔と目が合う。あぁ、このあとが怖い。それなのに、やっぱり新開が触れてくれている腕は熱くて、その箇所が心臓になったみたいにドクドクと脈打って、沸点を超え過ぎて逆に心地良い気までしてくるから不思議。
「ところで、何の縁起が悪かったんだ?」
「それは言わない!」
本当は言えない、だけど。
(新開さんに危ないところを腰抱きで助けられたい)