08
「我ながら美味しい!」

自画自賛しつつ、フィナンシェをパクつく。焦がしバターとアーモンドプードルってところが他の焼き菓子と違って私好み。この際カロリーお化けなことには目を瞑ろうと思う。普段お菓子作りなんてしないけど、調理実習ということで好きなフィナンシェが食べたい!って我が儘言った甲斐があった。だって同じ班にお菓子作りが上手な子がいるからね、自分では作らないようなものでも大丈夫だと思ったんだ。その選択肢はまさに正解!だから、さっきは我ながらとか言っちゃったけど、本当は私ではなく班のみんなのおかげな訳なんだけど。
でも、思ってたよりは簡単だったし頑張れば作れそうな気もしないでもないけど……こんな風には出来る自信もないし、そもそも作ったら全部パクパク食べちゃうだろうから、さすがにそれはカロリー的にやめておいたほうが良さそう。うん、そうしよう。
……と、1人で納得しつつもう1つ食べようと手を伸ばしたはずなのに、私の人差し指と親指は何も掴めなかった。

「ん、うまいな」
「ちょ、ちょっと〜!」

横から声がして状況を把握した。携帯片手に目線もそっちに向けていたけど、机にそれを伏せて犯人の方を向く。いくら新開でもこの貴重なフィナンシェは簡単にあげれないんですけど?って嫌味ったらしく言えば、ケチくさいこと言うなよ、って全く悪びれずに笑った。

「この前、何か作ってきてくれるって言ってたやつじゃないのか?」
「この前?いやいや、作ってくるなんて言ってないし、そもそもこれ選択授業で皆で作ったやつだよ。皆で分けるからたくさんないし、私が作ったってわけじゃないから……」

お礼にならないじゃん、って言いかけて慌てて口を噤む。いやいや、お礼するしないとかの前にそんなこと言ったら、私があたかも自分の手作りのものあげたいみたいじゃない。そんな恥ずかしいこと真正面から言ってどうすんの、馬鹿じゃないの?言いとどまって良かった……って思ったところで、にやにやした顔で見られてることに気付いた。

「ふうん?ちゃんと作ってきてくれるつもりなんだな」
「そんなこと言ってないけど……!」
「俺にはそう聞こえたけど?」
「じゃあそれは新開の勘違いです」
「……それは残念」

本当に残念だと思ってるのか怪しい顔で言われると、なんだか負けたような気がして悔しい気持ちになってしまう。けど、これ以上反撃しても墓穴を掘るだけなのが目に見えたから、悪態はバレないように飲み込む。

「……美味いやつ待ってるからな」
「え、ちょ!」

一瞬油断した隙に、また伸びてきた腕が最後の1つだったそれを奪っていって、変な声が出てしまった。なんてこった。最後の1つまで奪ってくなんて、酷すぎる。これは見過ごせない、そう思って新開の顔を睨むと同時に口に何か押し込まれた。なにかは、すぐに分かったけれど訳が分からなくて、反射的に咀嚼しながら間抜けな顔をしてしまった。

「餌付けしてる気分だな」
「なんなの」
「だから、次はなまえが俺を餌付けする番な」
「……期待はしないでよね」

ああ、もう負け負け。私の負け。そこまで言うなら柄じゃなくても、美味しくなくても作るよ、作ります。作らせていただきます。不味いって言ったら許さないんだからね。……なんて悪態をつきながらも、悪い気分じゃないどころか嬉しい気持ちが勝ってることは気付いてないことにしよう。

(新開さんに手作り強請られたい)

ALICE+