私に手を差し延べてくれた。

恋した3秒後
〜イルミの場合〜


私は、いきなりゾル家に来た。正しく言えば、拾われた。
捨てられたのは大分前。
生まれつき念を持って使えた私を、念を知らない両親は怖がって捨てた。不気味な子だと。

どの位さまよって、どの位ひもじい生活をしたのかは忘れたけど、昨日私はキキョウさんに拾われた。

「きっと皆気に入るわ!」

皆って誰だろう?
カルトくん?キルアくん?ミルキさん?シルバさん?ゼノさん…?それとも、会ったことないイルミさん?

『キキョウさん、キキョウさん?』
「なぁに、なまえちゃん?」
『あたしは誰に気に入られたら良いの?』
「そうね、イルが気に入ってくれたら嬉しいわね!」
『イルミさんに…?』
「あぁ!でもね、イルに気に入られなくてもね、良いのよ!あの子は気難しいから!なまえちゃんは誰かのお嫁さんになってくれれば、それで良いのよ!フフ!」

キキョウさんは、そう言って笑ってくれたけど、イルミさんがキキョウさんが言う様に気難しいなら、きっと私を気に入るなんて事はないのだろう……。
イルミさん…どんな人なんだろう?カルトくんやキルアくんみたく可愛い人?ミルキさんみたいに個性的?それともシルバさんみたいに、たくましい?

イルミさんと言う人を想像しようとすれば、難しくて、頭がごちゃごちゃになる。

『?』

ふと、気配がして振り向くと、そこには綺麗な漆黒の長い髪。大きな猫目、整った顔立ちの人が立っていた。

「絶してたのにすごいね、君だれ?」
『……イル、ミさん?』
「…俺が聞いてるんだけど」

ほとんど表情は変わらないけれど、雰囲気から気に障ったのが分かる。

『あ、あの、いや!すみません!…怒らないで下さい…!』
「…別に怒ってないけど」
『え…でも…あ、いや何でもないです』

……もっと怒らせちゃった?それでもやっぱり顔は無表情だけど、オーラが怒ってる気がしてどうしようもない。

「ねぇ、……名前」
『……あ、なまえって言います!よろしくお願いします!』
「ふぅーん、そう」

何回も名前を聞いてきたイルミさんだったけど、反応は意外と薄くて拍子抜けする。興味なさそうな返事が少し淋しかった。

「俺の許婚候補か……」
『……え?』
「母さんが言ってたよ、捨てられたから嫌われるのが、また捨てられるのが怖いって」
『……それ…は…』

違う、とは言えない。

「兄弟の誰かの、って言ってたけど…悪くないね。俺のモノにするのも」
『……?』
「俺ならなまえを捨てたりはしない、だから俺のモノになれ」
『…イル、ミ、さん?』

変わらない表情、だけど深い漆黒の瞳はキラキラ反射して…、吸い込まれていく。心臓が高鳴る。
今、感じるこの感情をきっと人は恋と呼んでいるんだろうか。

じゃなければ、私は恋なんていらない。

「おいで」

差し広げられた腕に飛び込んだ事は必然。
例えワナだとしても、私はもう恋に堕ちた後だから。

私の欲しかった言葉を言ってくれたから、
もう貴方しかいらない…、

恋した3秒後
貴方の胸に飛び込んだ!
(あたしは誰かに必要として欲しかった)

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