「なまえ、なまえ!」
『…ごめん、僕は誰かなぁ?』
「くらのすけやん!わすれんといて!」
『あはは…お姉ちゃんの彼氏と同じ名前だね、……偶然』
「ちがう!おれなんや!ざいぜんにもらったジュースのんだらちぢんだんや!」
『へ……?』

……どうやら、この小さな僕は蔵ノ介らしいです。


『ちょっと光、……どういう事か説明して』
「え……まさかソレ、白石部長なんすか…」

部室に入って来た光に睨む様にして言うと、意外にあっさりと状況を理解した光がテーブルの向かい側に座り、まじまじとあたしの膝に座る蔵ノ介(推定3歳)を見た。

「それってなんや!ものみたいにいわんといて!」
『ちょ、ちょっと膝の上で暴れないの!』
「あ…ごめん」
「…精神年齢も下がってるんすかコレ…?」
「さがってへんわ!」

……と言いつつ、光が黙って蔵ノ介の前に差し出した飴玉を嬉しそうに受け取って舐め始める辺り、説得力がないと思う。
それに、楽しそうに鼻歌なんか歌いながら足をぶらつかせる姿はまさに幼稚園児レベル…。

『それで、蔵ノ介に何飲ませたの?』
「青学の乾さんから貰ったジュースですわ。自分で飲むの怖かったんで。…でも飲まなくて正解っすね」
『だからってなんで蔵ノ介に!謙也くんとかいたでしょ?!』
「…先輩ってさりげなく毒舌っすよね」
『…あ』
「なまえ…おれねむい…」
『え?』
「だっこ」
『は…?』
「…キモ」
『光、聞こえてるからね』

いや、てゆうか…何が起きた…?!
あの蔵ノ介が!あの四天宝寺の部長で聖書と呼ばれるいつも余裕たっぷりな、あの蔵ノ介が!

『だ、だ、だ…だっこぉ?』
「うん…んでな、背中ぽんぽんしてな?」

…なんですか、この犯罪的な動物は。
膝に座ったままこっちを見上げる様に振り向いた蔵ノ介の目はとろん、と本当に眠たげで必死に瞼を閉じない様に両手で目を擦っている。
くりくりした目はその性かちょっぴり赤くなって潤んでて、贔屓目無しに可愛い。

『…しょ、しょうがないな』
「やったー」

すると蔵ノ介は、膝の上に座っていたのを自分で向きを変えてあたしの首に腕を回して抱き着く状態のまま首元に顔を埋めてきたから、そのまま言われた通りに背中を優しく規則的に叩いてあげると1分もしない間に寝息が耳元から聞こえてきた。

『寝たの?』
「………」
「ていうか、その白石部長どうするんすか?」
『とりあえず……連れて帰る?』

3歳の君へ!
蔵ノ介って小さい時はこんな感じだったのかな……?

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