いつも、彼の髪はさらさらと風に泳いでいて綺麗だと思う。なんて表現して良いのか分からない綺麗な独特の髪色、そしてさらさらと柔らかそうな髪質。
1週間前、席替えをしてから私は彼の後ろ姿に夢中。窓側で彼の1つ後ろの席、それが私にとって特等席になった。教室に入ってきたそよ風が彼の髪を揺らすのをただぼーっと見つめているのがここ数日の退屈な授業の暇潰し。
「なぁ、」
『きゃっ!』
「え?」
いつものようにぼーっと白石くんの後ろ姿を見つめていると、彼の前を向いていた頭がこっちを向いて、突然あたしに声を掛けてきたから驚いて変な声を出してしまった。
『ごごごめん、ど、どうかした?』
「いや、なまえさんがどうかしたん?」
俺なんかしたん?って真剣に聞いてくれている白石くんには悪いけど、ただ単に驚いただけであって更に原因は白石くんを見つめていたからだから、少し言いづらい…。
『ごめん、驚かせちゃったよね変な声出して。いきなり振り向いたからびっくりしただけなんだよね…』
「こっちこそ驚かせてしもて、堪忍な。」
『ううん。あ、あの用件て…』
「ああ。悪いんやけどちょっと辞書かしてくれへん?千歳に貸したらまだ返ってこんねん」
『あ、うん、良いよ。ちょっと待ってね』
「おおきに」
机から探し出した辞書を手渡すと、お礼を言って白石くんはまた前を向いた。
同じクラスだけど、特に仲が良い訳じゃないから話したことも業務的な事か、本当に他愛もないようなちょっとした雑談くらいしかなかったから白石くんが振り向いて声を掛けてくるだなんて予想外で、少し私の脈拍数を上げた。
これ位でびっくりしてドキドキするだなんて、私の心臓ってこんなにやわだったかな。
そう思って、また前の白石くんの後ろ姿を見る。
あれ…?まだドキドキする。
驚いたからのドキドキじゃなくて、なんてゆうんだろう…緊張のドキドキみたいな。緊張?なんでだろう…。
よく分からないまま、揺れる白石くんの髪を見つめた。
「なまえさん、おおきに」
『え!…あ、うん。どういたしまして』
「お礼に飲み物でも奢るわ、何がええ?」
『え!いい!いいよそんなの!』
「ええって。何かせんと俺の気が済まんし」
『でも…』
「なまえさんって意外と頑固なんやな」
辞書位なんでもないのに、断ると少し困ったみたいに笑うからドキンっと脈打った。あれ…あれれれ…。
『あの…じゃあ』
「ん?」
『髪、触って良い?』
「え?」
『白石くんの髪、さらさらしてて触ってみたい…かも。あ!い、嫌だったらごめん!』
何言っちゃてるの私…!
気付いたら口が勝手に触りたいって言って自分でもびっくりした。触ってみたいけど、触ってみたいけど。失礼だよね…?
だけど、触ってみたいのは本心でずっと見るだけだった白石くんの髪に触れてみたくてしょうがない。
「別にお安い御用やけど、そんなんでええん?」
『…え、うん、いいの?』
ほな、どうぞ。そう言って身長が高い分、私より座高も高い白石くんは頭を屈むように私の方を向いて下げてくれる。
『あの、じゃあ……ごめんなさい』
おずおずとゆっくり手を伸ばして、彼の髪に触れる。予想通りの柔らかい感触とほのかに漂うシャンプーの香りにドキドキした。
『あ、ありがとう』
「…なんや、みょうじさんに触られるとドキドキするな」
『え…?』
それは恋する予感
『え…え、ごめん』
「え、なんでそこで謝るん?」
『だだ、だって…』