右頬に引っ掻き傷、左頬に泥。
恋した3秒後
〜不二の場合〜
彼女は、時々練習を見に来てる子の1人だった。いつも来ている訳ではないけれど、ふと気付くと居ることが多い。
他の子みたいに黄色い声援とかそういう類いの事は全くしなくて、ただ楽しそうに見ているだけ。だからなんとなく覚えてた。
「不二ー!今日の帰り、おチビ立場とファーストフードでも食べてかない?」
ばふん、と英二が僕の首に腕を回して抱き着いてきた。
「英二、重いから。それに今日は真っ直ぐ帰りたいから行けないや、ごめんね」
「そっかー…じゃあしょうがないっか、今度は行こうにゃ!」
「うん、また誘って」
部活が終わって1人で帰路を歩き出すと、ポツ、ポツ…と雨が降り出してきた。
今日は晴れのち曇りだったはずなのになぁと思いながらも、雨の日以外かばんに入れてる折りたたみ傘を出して差す。
『ほら!大人しくして!』
通り過ぎようとした脇道から女の子の声がして、ふと視線をそちらに向けると見知った青学の制服。雨が降っているのに傘もささずに、しゃがみ込むその女の子が気になって近付く。
『キミ泥だらけだねー?捨てられたの?……うち来る?』
近くに寄ると彼女の前に段ボールがあるのが見えてきて、台詞からして猫か何かがいるのが分かった。
「大丈夫?」
『……え?』
傘を半分彼女に傾けながら声を掛けると、全く人の気配に気付いていなかったのか、びっくりした様子で振り向いた。
その女の子が時々練習を見に来ている子だというの事に気付くのは早かったと思う。
『ふ、不二くん…!』
「傘も差さないでいたら、風邪引いちゃうよ?」
『え……あ、うん、ありがとう』
身体をこっちに向けた彼女の腕には小さな仔猫が抱かれていて、雨で濡れたみたいでふわふわしていたであろう猫の毛はしおれていた。
「拾うの?」
『……うん、可哀相だからね』
「そうなんだ、優しいんだね」
『そんな事ないよ、猫好きなだけだし』
「送ってくよ、傘無いんでしょ?」
『え…でも…』
「それ以上、その子が濡れるといけないしね?」
行こう、と手を差し延べると少し躊躇ってから彼女は僕の手をとった。
『ありがとう、不二くん!』
「……」
彼女の右頬には仔猫がつけたであろう爪痕、左頬には仔猫についていたであろう泥がついている。
なのに、ありがとうと言って笑った彼女の笑顔はそんな事が気にならないほど、眩しく感じた。
君の笑顔に射抜かれた
恋した3秒後、泥のついた君の頬に触れた