『なんで幸村は私なんかをマネージャーにした訳?』
なまえをマネージャーにしてから数ヶ月経ったある日、今さらなまえはそんなことを尋ねてくる。
「なんでかって、簡潔に言えば…」
『言えば?』
「他の女みたいにキーキー五月蝿くないから」
本当は元々気に入っていたからとか、野放しにしとくと俺が苛々するからとか、色々あったりするけど面倒だから言わない。
『モテる男は大変だねぇ』
「ふふ、それはどうも」
『今の嫌味だったんだけど』
「分かってて、そう言ったんだけど?」
なまえは俺のクラスメイトで今年初めてクラスが一緒になった。他の女子みたく、俺は元よりテニス部の皆を見ても騒がないし、それでいて嫌味がなく明るい。
大体の猫なで声の女が俺たちに媚びると周りが黙っていないはずなのに、人望の厚いなまえには何ともなくて。それで、興味を持ち始めたのが最初。
今まで色恋なんかで苦労なんてしたこと無かったはずなのに、俺を特別扱いしないなまえは、俺を特別視もしない訳で。正直、時折イライラしてしまう。
『でもさ、幸村がモテるのは事実だから余計に腹立つよね。ちょっとは分けて欲しいわぁ』
「女の子を?」
『いや、そうじゃなくて……』
からかうように言うと、小さいため息をついて呆れたように笑う。
分けてほしいだなんて冗談じゃない。今だって俺を苛立たせるには充分なくらいなまえはモテているのに。本人は気付いていないだけで、俺の日頃の努力も知らないで。
部内のはもちろん、学年にだって牽制してるし、マネージャーにしたのだって目の届く範囲に置きたかったっていうのが理由の1つだ。
「なまえはさ、」
『うん?』
「それ以上でもそれ以下でもなく、今のままで良いんじゃない?モテなくたって面白いし」
そう言えば、"一言余計なんだよ幸村は!"と言って、だけど少し嬉しそうに目を細めた。
ああ、こういう所が癖になる。
普段は活発的で笑うのもケラケラという擬音が似合うこの彼女が、時折見せる"女の子"らしい姿にドキっとさせられる。
女々しい感じの子は苦手というか嫌いだと思っていたけれど、なまえのは純粋に可愛いと思えるから不思議だ。
「それになまえが誰にも貰ってもらえないなら、俺がお嫁に貰ってあげるよ」
『…え?』
そう言いながらなまえの頬に手を伸ばすと、ポカンとした後、意味が分かったのかトマトみたいに顔を紅くした。
「ゆゆゆ、幸村?!」
「はは、なまえったらトマトみたい」
思わず笑ってしまうと、離してほしいのか俺の腕を掴んで力を入れるけど俺の力に敵う訳もなくて、俺はそのままの体勢でなまえの額に唇を落とした。
『なッ!?』
「何って、美味しそうだったから」
びっくりして手の力が抜けたなまえを良い事に無言は肯定とみなして、今度は唇にキスをした。
トマト
「俺のこと好きだったんだ?」
『……好きじゃなかったらマネージャーみたいな面倒なことしないよ』