『蔵、』
「…なんや、なまえ先輩か」
暗がりの中、小さく名前を呼ぶと、苦しそうに息を乱した声で私の名前を呼んだ。頭からタオルを被って座っているから表情は読み取れない。
『誰かに何か言われた?』
「……特に言われてへんよ」
"特に"
きっと、3年の誰かに何か言われたんだと思う。
蔵は有望で部内で誰よりテニスが上手くて信頼も厚く部長業もなんなくこなしてしまう。だからこそ、反感を買うときがある。どちらかと言えば妬みに当てはまるんだけど。
『身体壊すからあんまり無理しちゃダメだよ』
「…わかっとる」
『じゃあ今日はもう帰ろうか』
「わかった」
蔵が部活が終わってからも遅くまで自主練をするのはよくあることで。だけどそれでも、今日はやりすぎだと思う。
健康オタクでもある蔵が、無理をしてがむしゃらに練習をする時はいつも何かあった時だ。きっと蔵は私が思ってる以上にプレッシャーを感じていて、それでいて強がっているだけで繊細なんだと思う。
「なまえ先輩、」
『うん?』
「抱き締めさせて」
『…うん』
私が頷くとベンチに座ったままで蔵が両手を差し出すから、その腕の中に入る。ぎゅう、と強く抱き締められて少し苦しいけど、私も蔵を抱き締め返してそっと頭を撫でてあげる。
こういう時の蔵は普段と比べてすごく無口になる。だからそれはSOSのサインなのかなって思って、そういう時は出来るだけ甘やかす。
いつもはどっちが年上なのって言う位に蔵は余裕で、私が甘やかされているから、こういう時位しか年上振れなかったりもするのだけど。
『蔵が良いなら良いけど、何か言われたりされたらちゃんと言ってね』
「…ん、」
『そしたら私があいつらボッコボコにしてあげる』
「……俺何も言ってへんのやけど」
『その位は分かるよ。蔵のことだもん』
「……」
また一段と私を抱き締める腕の力が強くなって、肩に顔を埋めた。
私は自由に動く右手でそっとまた頭を撫でて、蔵の柔らかい猫っ毛を指に絡める。
「なまえ、」
『うん?』
明日からまた、頑張るからキスして
『今日は本当に甘えただね?』
「…たまには、ええやろ?」
『うん』