「平古場くんの彼女って……、」
「あ?彼女って、やーもあの噂信じてるのかよ?」

放課後、日直に言いつけられた事務作業。2人でやればすぐ終わるだろう?って担任に渡された冊子作りのはずなのに、平古場くんの手が動く様子はない。
2つの机を向き合わせて座っているのに、彼はつまらなさそうに頬杖をついて作業を見ているだけ。手伝えとは言えないけれど、せっかくの2人っきり。気になっていた話題を、さも何気ないふりをして振ってみると、予想外な答えが返ってきた。

「え?噂?」
「あれだろ、隣のクラスの」
「うん、違ったの?」
「やーが、そんな噂信じるなんて思わんかったばー」
「じゃ、じゃあ付き合ってないってこと?」
「あにひゃーみたいな、でーじなんぎーそうな いなぐ嫌やっしー」
(あいつみたいな、すげぇ面倒そうな女嫌だ)
え、と……?」
「……ああいう女はタイプじゃねぇんだよ」
「あぁ、そういう意味ね」

なんだ、噂……だったんだ。こっそり心の中でホッとする。正直、噂の彼女と平古場くんは美男美女というかお似合いだからこそ、知ったときショックだったけど勇気を出して聞いて良かった。彼女じゃなかったんだ、良かった。
あの子と付き合っているわけではないと知ったら、なんだか心が軽くなって手の動きも軽やかになるんだから私ってば単純。思わず鼻歌まで出そうになったけど、それはどうにか飲み込む。

「で、それだけか?」
「それだけって?」
「他に言わなきゃいけないこと、あるんじゃねぇの?」
「ほかに……?」
「決まってるやっしー」
「これ手伝ってくれないの?……とか?」

相変わらず私の手しか動いてなかったから、恐る恐る言及してみると平古場くんが思っていた答えとは違っていたようで、ほんの少し眉間に皺を寄せてため息を吐かれた。

「やー、意気地なしすぎだばー」
「はぁ…」
「ここは、好きです〜って告白するところだろ?」
「え?!え……?」
「遠回しに彼女がーとか聞いてホッとしてる場合じゃないさー」

わん、結構モテるんだけど?と、含みのある笑顔を向けられて、ドックンドックンと本当に口から飛び出るんじゃないかと思うくらい、激しくて強い動悸を心臓が始める。それからホッチキスをしようと持った紙が手汗で歪んでいく。
もしかしなくても、私の気持ちがバレてるっていうこと……だよね?

「ひ、平古場くん……」
「ほら、」

正直に、好きって言えよ
そしたら、わんもしちゅんだばーって言ってやるからよー?

Title by 確かに恋だった
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