「私、斉藤くんのこと好きかもしれない……」
「……なにを唐突に」
「だってね、斉藤くん見るとドキドキしてまともに顔見れなくなっちゃったんだよ、これって好きってことじゃないのかな?」
「君、まさか好きだとか言われて浮かれてるわけじゃありませんよね」
「え、なんで斉藤くんに告白されたこと知ってるの?永四郎エスパー?!」

そのまさか、なのだ。
先週、クラスメイトの斉藤くんに告白されて以来、彼とまともに話せなくなってしまった。これまで、彼氏ができたこともなければ恋もまともにしたことがなかった私が突然、好きだと、付き合ってほしいなんて言われて、浮かれないわけがなくて。少なからずマイナスの気持ちはないし、考えて欲しいと言われて返事は保留になったまま。
でも、友達に相談してもドキドキするなら恋じゃない?とりあえず付き合ってみたら?と言われて、前向きに考えてみようかと思ったのが今日の昼休み。

「好きと言われれば、君は誰でもいいと。そう聞こえますよ」

不機嫌そうに冷たく言い捨てられて、こっちまで不愉快な気分になる。人の感情を逆撫でするような物言いは永四郎の十八番だけど、このタイミングで意地悪しなくても良いのにって思ってしまう。機嫌の悪いタイミングで相談なんかした私も悪いのかもしれないけれど。

「永四郎、機嫌悪い?」
「俺の機嫌が悪いと?」
「え、違う?」
「いえ、合ってますよ」

元々1mもなかった距離を数歩詰められる。今までにない距離感に違和感を覚えて1歩後退ったところで、肩を掴まれてそれ以上動けなくなる。見上げた永四郎の顔は、見たこともないくらい威圧感のある表情で、なんだか怖い。

「疎いとは思ってましたが、ここまでとは思いませんでした」

そう言って、呆れたような声色とともに少しだけ表情が緩んだ。それにホッとしたところで、おもむろに永四郎の顔が近付いてくる。
え、なに、と喉まで出かけたのに、それは吐息になって声にはならなかった。まさか、私、キスされちゃうの?そう思った瞬間に大きく心臓が飛び跳ねて、どうしようもなくなって、ギュッと目を瞑る。
けど、予想の感触なんてものは襲ってこなくて、数秒の間を挟んでから恐る恐るゆっくりと目を開けると、怖いくらいの笑みを浮かべた永四郎の顔が目の前にあった。

「キス、されるとでも思いましたか」
「……っ!」
「斉藤と付き合ってみようかと言った矢先に、俺とキスしようなんて不誠実もいいところですね」
「だ、だって、それは永四郎が!」
「……俺もなまえが好きです、と言ったら君はどうするんですか?」

そう囁かれて、反射的に何を言ってるの!と思うのと同時に、斉藤くんなんて比べものにならないくらいに脈拍数がどんどん上がってることに気付かざるを得なくて。
少なくとも永四郎の言うとおり、斉藤くんのことは好きでも何でもなくて、ただ好意に浮かれてしまっただけなのかもしれない。でもそれを今ここで認めてしまうのには、なけなしのプライドが邪魔をする。代わりに、苦し紛れに永四郎なんか嫌い!なんて、小学生レベルの嘘を口走ってしまった。
でも、もちろんそんなのお見通しの永四郎は、不敵な笑みを浮かべて、自信満々にもう1度囁いた。


俺を選ぶ、違いますか?

Title by 確かに恋だった
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