泣いてもえぇんやで、って言ってくれた彼の声はとても優しかった。

私の片思いは告白する事もなく、あっけなく砕け散った。ずっと好きだった。仲が良い方だと思ってた。少なくとも、女の子として位は見てくれると思ってた。だけど、そんな淡い期待は意図も簡単に捨て去られたのだ。

「……泣かんのや?」
『だって、告白してもないのに散ったなんて馬鹿みたいでさ…、呆れて笑いも出てこないや』

夕暮れの放課後。
オレンジ色に染まった教室には私と謙也くんの影だけが並ぶ。1つの机を挟み、向き合う形であたしの前の席に謙也くんが後ろ向きに座って。心とは裏腹な綺麗過ぎる夕焼けが眩しいくて目を細めたくなる。涙は出てこなくて、ちょっと安心した。

そか、と小さく頷いた謙也くんが頬杖をついて、まじまじと私の顔を見つめてきて、少し恥ずかしい。机を1つ挟んだだけって意外と距離が近い。

『謙也くん、そんなに見ないでよ』
「あ…、わるい…」

ぽりぽりと頬をかいて目を反らしてくれた謙也くんにちょっとだけホッとして。ほんのちょっと頬が紅くなったように見えるのは夕焼けのせいとして、それでも照れたような仕草が可愛い。
だけど、そんな事を言ったら怒られちゃうかもしれない。

「……なまえ、」
『ん?』
「そんな、無理に笑わんでえぇよ」
『え…』
「泣けばええんやで、」
『けん、やくん…』
「無理に紛らわさんかてえぇんや。泣きたい時に泣きや」
『謙也くん、ず…るい』

謙也くんはまた私に視線を戻して、彼には珍しい真剣な眼差しで私を見つめた。そして核心をつく。
あ…、やばい。って思った時にはもう遅い。……あぁ、なんでバレちゃったんだろう。
そんな、優しい声色で言われたら甘えちゃうよ。無理してでも笑わないと、泣いたら負けな気がして、泣きたくなかったのに。

……ほら、謙也くんがそんな事を言うから視界が歪んできた。だけど、謙也くんの前なら良いかなって思うのは、私が謙也くんに安心しきってるからなのか、混乱している私には判断出来ない。

「ほら見ぃ。やっぱり我慢してたやん」
『…けん、やくん、の…ばかぁ…とまんな、い…!』

我慢するだけして、溢れ出した涙は洪水みたいで、止まらない。
謙也くんは、楽しい時は一緒に笑ってくれて、へこんだ時は一緒にへこんでくれる優しい人。だから、今だって笑う彼の顔は苦しさがこめられていて。
だけど、どこか満足そうなのは最初からきっとあたしを泣かせるつもりでいたんだ。いつだって彼は、自ら感情の吐き出し口になってくれようとするから。

「泣けるだけ泣いとき。せやけど、明日からは笑えな」

そっと頭に置かれる謙也くんの手は暖かくてひどく安心する。私が、人に心配かけるのが嫌いなのを知っていて、だから明日からは笑えと言うんだから逆らいようもない。

『わた、し、謙也くんがいて良かった……いつもありがと』
「えぇよ。だってな?」
『うん?』
「あいつよりお前といた時間、長いんやから」
『……うん』
「なぁ、……付け込んでえぇ?」

彼はきっと優しすぎる
好きな子に恋相談されるって苦しかったんやで、って言うけど、それでも相談に乗ってくれた彼は優しい

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