それは、甘酸っぱい香りやった。
甘い良い匂いやったから、何の匂いやろって視線をずらすと走り去るみょうじの姿。背中近くまである長い髪が規則的に揺れて、綺麗やった。


「みょうじって何の香水付けとるん?」
『へ?』

今までほとんど話した事もなかったからか、みょうじは間抜けな声を発して、俺の顔をポカンと見つめよった。その表情が豆鉄砲くらった鳩みたいで、可愛い。

「いやな?さっきみょうじが走り抜けてった時に甘い匂いがしたんや、何の香水付けてんのやろかて思うて」
『…でも私、香水なんか付けてないよ?』
「え?ほんまに?」
『うん、付けてないよ』
「じゃあ、何の匂いやったんやろ…」
『う〜ん、私じゃないんじゃないのかな?』

あの時周りにはみょうじしかおらんかったし、走り抜けて匂いがしたから絶対みょうじやと思うんやけど……。せやけど香水付けてないんやったら、ちゃうんかなぁ。

「……」
『……え、ちょっと白石くん近い!』
「あ、分かったわ」
『……へ?』

ほんまに違うんかなぁって思うて、顔を近付けて鼻を利かせてみるとみょうじはびっくりしたのか顔を紅くして、慌てる。また、ふわっと甘い香りが掠めて、それと同時にトクンと心臓が脈打った。(なんやろ、苦しい…?)

「匂い。シャンプーのやったんやな」
『シャンプー?』
「めっちゃ良い匂いしとるで、髪」

染まっていたはずの頬が更に紅く染まって、まるで林檎の様になってかわええ。

『……あ、最近シャンプー変えたからかな?甘い香りのやつ』
「それやそれ、甘い匂い」
『でも、それがどうしたの?』
「ん、みょうじって良い香りやったんやなぁって思うただけ」

恥ずかしがって慌てるみょうじを見て、自然と上がる口角と自分の甘い声が他人事の様に思えた。

ほのかに香る君の髪
俺の好きなタイプ?…そうやな、シャンプーの香りがする子。それもとっびきり甘い匂いの。

(シャンプーの香りがする子が好きなんじゃなくて、好きな子のシャンプーの香りが好きだったら良いな!という妄想)
ALICE+