誰でも誘う彼が憎い。
千石は朝から嬉々と席に座って、隣の席でぼーっとしていた私に笑いかける。

「今日も俺絶好調だね、なまえ!」
『…そう』
「そうなんだよー、ユミちゃんをデートに誘ったらOKしてくれてさ、俺ってラッキー!」
『ふ〜…ん』
「……あれ、なんだか機嫌悪い?」
『別に』

機嫌が悪いんじゃない。苦しいだけ。女の子が好きな千石を好きになってしまった自分が愚かに感じて、辛いだけ。女の子とデートするとか、誰々が可愛いとか、そんな他の子の話なんて聞きたくないのに。

「……そう?」
『うん。いい加減千石の女好きに呆れてただけ』
「えぇー、それはひどいなー」
『だって次から次へと変わってって展開についていけないもん』
「あはは、は」

それなのに、私を誘う事は1度もなくて、それがより一層私を苦しませる。
私をたくさんの中の1人にすらしてくれないんだね。そんな価値すらないと言われてるようで悲しくなる。

『さすが、好みのタイプが女の子皆なだけあるね』
「あー…、さすがにあれはちょっと言い過ぎたかな…とは思うんだけどね」
『まぁ…、確かに。誰でもデートに誘う訳じゃないしね』
「っていっても酷くない限りはとりあえず誘うけどね!挨拶代わりに」
『……』
「……なまえ?」

そんなに簡単に、そんなに沢山の子を、誘うのに私にはやっぱり誘う価値すらないんだね。
よく千石と話すようになって仲良くなったと思ってるのは私だけ?隣の席になったから話しかけてくれてるだけ?
嘘で良いから冗談みたく、他の子みたく、私を誘ってよ……

「……え?え?なまえ!?」
『…っ』

いつもは我慢出来たのに、してきたのに、私は誘われない一握りだったと思うと悲しくなって涙が出た。

「ちょ、ちょっとなまえ!?どうしたのさ、いきなり!どっか痛い?」

ぶんぶんと頭を横に振ると、千石は困ったように笑って泣かないで、と両手で私の頬を包んだ。彼の顔が今までで見た中で1番近いのに、涙の性で歪んでよく見えない。

『せ、んごく…』
「ん?」
『わたしも、』
「うん?」
『デートに誘って、よ…』

涙声のままそれだけ言うのが精一杯で、言い訳が出来ない分とてつもなく恥ずかしくて死にたくなった。

「んんー!やっぱり俺ってラッキー!」
『へ…?』

私が言葉を紡ぐ前に近かった千石の顔が更に近付いて、そのままおでこに唇が落とされる。小さなリップ音が耳に響いた。

「じゃあさ、今日のユミちゃんとのデートはやめにしてなまえとデートにしよっか」
『え?千石、あの…』
「それに明日も明後日も日曜も、なまえとデートにする」
『え…、あの…それってどういう、』
「要するに、好きな子とのデートなら他の子とのデートなんていらないって事だよ」

朝陽を浴びて爽やかに千石が笑った。

胸が苦しい、好き過ぎて苦しい
心臓の鼓動が早すぎて、私、このまま死んじゃうかも

(本当に好きな子は口説いたりデートに誘えなかったら、可愛いなぁって)
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