「新開くんだー、かっこいいー」
「新開くん、おはよー」
「みんな、おはよう今日も良い天気だね」

慣れとは怖いもので、一瞬で貼付けれる笑顔。ただ笑っておはよう、と返せば良いだけだから簡単。しかも、声を掛けてくる子は大体みんな可愛いし、別に苦ではないけど、めんどくさくもある。

「おー!新開良いとこに来たな!」
「何かあるのか?」
「田中がコレ持ってきたんだよ!」

教室に入ると、クラスメイトが一つの机を囲んでいて、俺も呼ばれる。覗けば、グラビア好きで有名な田中が、人気グラビアアイドルの写真集を広げていて、それを数人で食い入るように見ていた。買うほどでないにしても、最近よく見掛けるそのグラドルは確かに可愛い。

「やべぇよな、これ!なぁ新開?」
「そうだな」
「ちょっと男子!」
「あ?なんだよ?」

そうやって男同士ワイワイやっていると、クラスメイトの女の子達が甲高い声で割って入ってきた。クラスでも目立つ方の子達は、俺達が視線を向ければ呆れた様に一息ついて、俺の方を見た。嫌な予感。

「あんたたちが変態なのはどうでも良いけど、新開くんまで巻き込まないでよ!」
「新開くんはそんなの興味ないんだから!」
「はぁ?何言ってんだよ、新開だって普通の男子だぜ?」
「そうそう、グラビアだって見る!なぁ、新開?」
「え……そうなの?」
「新開くん……本当?」

あー……もう、そういうのやめてくれ。

「……そんなに好きなわけではないけど、」
「ほら!見なさいよ!」
「おま…!新開、裏切るなよ!」

全く何やってんだ俺。てゆうか、俺のイメージってどんなわけ?
小さく吐いた溜息は、どのクラスメイトにも気づかれることなく消えていった。

*

昼休み、こっそりうさ吉のいる校舎裏へ向かうと既に先客が一人。俺と部内の奴以外にこんな場所に来る人なんて、いたのか。

「……あれ、新開くん?何でこんな所に…」
「みょうじさんこそ、」

それは、こっちの台詞。なんで、みょうじさんがうさ吉の所に?

「このうさぎ、……誰か分からないけどここで飼ってるみたい」
「みょうじさんはよく来るの?」
「私は最近偶然見つけて、小学生の時に飼育委員してたからなんだか懐かしくて」

みょうじさんは、手に持っていた袋からキャベツを取り出して、小屋の隙間からうさ吉の口元に差し出す。うさ吉は嬉しそうにシャリシャリ言わせながらそれを食べる。なんだかみょうじさんまで嬉しそうに笑うから、思わず言ってしまった。

「抱いてみる?」
「え?」

不思議そうに俺の顔を見上げられて、自分が飼い主だと言ってしまった事に気付いた。うさ吉がいる小屋には簡易的とはいえ、カギがかかっていて、そのカギを持つのは俺だから。

「……新開くんが飼ってたの?」
「そ。……意外?」
「……うん」

そうだよな。俺がこんなところでうさぎ飼ってるなんて思わないよな?なんで見つけちゃうかな。隠してる第一の理由は、何で飼ってるのかとか、そういうの聞かれるのが嫌だからなんだけど、彼女なら口止めできるかな?

「抱いていいの?」
「いいよ」

目を輝かせる彼女を横目に、制服のポケットに入れてあるカギを取り出す。小屋を開けると、嬉しそうにみょうじさんがうさ吉を一撫でしてからそっと抱き上げた。その手際はさすが元飼育委員とでも言うのか、手慣れてる。うさ吉も大人しく撫でられていて、なんだか気持ち良さそうにしているように見える。……良いよな、うさ吉は見た目も姿も中身もイメージ通りで。

「新開くんって、うさぎ好きだったんだね」
「好きとか、……そういう訳じゃないけど」
「こんなに小屋も綺麗にしてこまめに見に来てるのに?」
「……でも、似合わないだろ?」
「好きなものに、似合う似合わないなんて、関係ないんじゃないかな」
「……そういうもんかな」
「うん、そういうもんだと思うよ」

他の子だったら、きっとこんな反応はしてくれない。みょうじさんは、違うのか。

「うさぎ好きなんでしょ?」
「そうだな、多分」

多分、と曖昧に答えた俺を見て、楽しそうに笑う。そこで予鈴が鳴って、うさ吉を戻して別々に教室に戻った。

……うさ吉のこと、内緒にしてもらわないといけないな。
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