「新開ベプシ奢れヨ」
「またベプシか」
「部活終わりのベプシ美味いじゃん?」
「今日だけだぞ」

いつもの様に部活が終われば、靖友がねだるように俺に寄ってきた。そういえば昨日、今月ピンチだって騒いでたな。まぁ、ベプシ買ってなんて可愛いもんか。
着替えて校門に向かうと、人影が見えた。もう暗いのに誰かを待ってるのか。運動部はどこも遅いからな……なんて通り過ぎようとすれば、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

「……みょうじさん?」
「あ、あの……」
「ごめん、靖友やっぱり明日でいいか?」
「あァ?また女かヨ」
「悪いな」
「はいはい、分かった」
「あ、あの、ごめんなさい急に」
「いいよ別に。で、どうした?」

先に帰って行く靖友の背中を見送りつつ、みょうじさんを促してと歩き出す。昨日のアレ、かな。

「本当は、もっと早く声かけたかったんだけど……勝手に待ってごめんなさい」
「いや、大丈夫、変に気を遣わせて悪いな」

日中の俺は大体誰かといるし、クラスメイトといえどみょうじさんとの接点は相変わらず教室では皆無。声掛けにくくて当たり前だろう。
でも、かいがいしく待ってるなんて、ちょっと可愛いな、なんて思いながら横を見やるとみょうじさんは、嬉しそうににっこり笑う。

「みょうじさんって、最初のイメージと全然違ったな」

もっと大人しくて暗い子かと思ってたのに、実は結構喋るし、笑う。

「え、そうかな?……でも、それは新開くんもだよ」
「そう?」
「うん。最初はね、格好良くて爽やかで優しくて皆から人気のある人だなって、近寄りがたかった」
「今は?」
「意外と大雑把な普通の男の子で、あと愛想良いように見せかけて、たまにめんどくさそうにしてる」

……なんだ、みょうじさんはもう気付いてるのか。
じゃあ、俺から離れてくのも時間の問題ってわけか。みょうじさんも結局皆と同じように、

「だから、そこが好きで」
「……は?」
「ギャップってゆうか、あんなに完璧に格好良いと思ってた新開くんでも、やっぱり普通の男の子なんだなって思ったら、妙に親近感抱いちゃった」

そう言ってから照れたのか、みょうじさんは恥ずかしそうに俺から目線を外した。……そんな風に言われた事なんてなくて、俺の方が照れてしまいそうだったから顔を見られなくて助かった。

初めてかもしれない。
俺をそんな風に見てくれて、それを分かっていて近づいてくる子なんて。

「あとね、こうやって話す時はちょっとだけ話し方もいつもより男の子っぽくて好きだよ。……私の気のせいかもしれないけど」

あぁ、みょうじさんは他の人と違う。もしかしたら、

「新開くん」
「……なまえ」
「え、名前……んっ」

もしかしたら、本当の俺を見ても幻滅しないでいてくれるのか?……まだ分からないけど。だけど、そんな風に言った女の子は初めてだ。

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