03
さて、今日も頑張るかー!そう張り切ったのは10分くらい前のことだと思う。私の気合いとは裏腹に、いつも使っている水道が使用禁止になっていて私のやる気はどこかに消えていってしまった。
そもそも、何でやる気になってたんだろう…。めんどくさ。
しょうがなく皆のボトルが入ったカゴを両手に持って、次に一番近い体育館横の水道まで歩く。これってさ、行きは空だから良いんだけど……帰りがきついんだよね。とゆうか、両手に持つとかこの距離無理だし2往復しなきゃいけないなぁ。そう思うと、ただでさえ暑いのにげんなりしてきた。なんでこんな時に限って水道使えないのよ?早く業者呼んで直してよね全く。
ぶつぶつと、愚痴りながらようやく体育館横まで辿り着けば、男子バスケ部の部員達が群がっていた。

ちょっと気持ち良さそう、なんて考えるほど楽しそうに顔面全部に水をかけて騒いでる。テンションめっちゃ高いな。うちの部員たちとは大違い。
高校生男子特有のテンションで次から次へと順番に水を飲んで浴びてを繰り返していく。……入る隙が全くない。さっさっと使わせて貰って戻りたいんだけどなぁ。どうしよう。
ぼんやりとカゴを持ったまま考えていると、制服を来た女の子が私を見て嫌そうな顔をした。
なんだろう?制服着てるしバスケ部じゃないだろうし見学?

「水道なんてグランド近くにあるのにわざわざこっちくるなんてねぇ?」
「気があるんじゃない?」
「でも、あんな色気も可愛さもないジャージ姿で来たってねぇ…」
「誰もお前のことなんて見てねぇっての」

わざと聞こえる声で隣にいた子たちと私を見てそう発した。そういうことか。
確かバスケ部ってキャーキャー言われてる部員何人かいたかもしれない。友達がバスケ部のなんたら君がカッコイイだの、いやなんたら川君のが可愛いだのよく騒いでるわ。私は名前と顔が全く一致しないからよくわかんないけど。
……めんどくさいなぁ。そういうの。こっちは水道使わせて貰いたいだけだし、そもそもあっちのは壊れてるんだからしょうがないじゃない。この水道だって別にバスケ部専用水道じゃないでしょ。

心ではいくらでも毒づけれるけど、私はそんなに強気でもなければ、むしろ小心者だしここでアクションを起こせるはずもなくまだ先にある端の水道に行こうと嫌々ながら決心した。あそこ本当に遠いのに、

「あれ、みょうじじゃん。なにしてんの?」
『あ、』

誰だっけ、クラスメイトの……なんとか君。名前わかんない。やばい。

「みょうじって自転車競技部やろ?なんでこんなとこまで来てんの?」
『あっちの水道壊れてるみたいで使用禁止になってたんだよね、本当不便…』
「へぇ、大変やな。ここ使えよ」
『え?いいの?ありがと、えっと…』
「齋藤お前なに休憩中に女とイチャイチャしてんだよ!」
「うるせぇな、どこがだよ!」

齋藤くん、齋藤くんて言うのか!助かった!
そういえば友達が齋藤くんもカッコイイとか言ってた!でも私はなんたら派だからとか。

『ありがと齋藤くん、助かった』
「あぁ、うん。別にこれくらい…」

女子プラスさらに外野の男子が増えて、視線が刺さるけどとにかくさっさと使わないことには戻れないし急いで作ってしまおう。

「俺、手伝おうか?」
『え?いいよ大丈夫だから』
「でも、その量一人で持ってくのも無理やろ?」
『最初から二往復するつもりだったから大丈夫だって。それより齋藤くんこそ部活あるでしょ?』
「今休憩中だから大丈夫や!」

いたって爽やかにそう押し切る齋藤くんはすごい。優しいし嫌みはないんだけど、いつも御堂筋くんみたいなのを相手にしてるからか逆に変な感じ。本当なら手伝って貰いたいけど、そもそも齋藤くんうちの部に関係ないしね?この感覚普通だよね?あれ?

あまりに彼が当たり前のことだよ!みたいに言うから流されそうになるし!危ない危ない。私、女子に敵作りたくないんだよ、怖いから。誤解なんだからね。

「俺二つ持つからさ、みょうじはあとそれ持ってきてくれよ」
『いや、だから良いから本当やめて!』
「大丈夫大丈夫、」
『ちょ…』
「…おっと、」

「うちのマネージャーに何か用なん?」
『御堂筋くん』
「それ、ボクが持つからええわ」
「え、でもなぁ」
「なまえが迷惑しとるんや、身の程考えてから行動しぃやザク。なまえはボクのや」

いやいや私、御堂筋くんのやないから!
そう突っ込みたくなったけど、話がややこしくなりそうだし、こんな所で目立ちたくもないから黙っとこう。
そう思って喉まで出た否定の言葉を飲めば、その間に御堂筋くんが齋藤くんからカゴを奪って歩き出していた。

『ごめん、齋藤くん』
「ごめんて、それ……御堂筋と付きおうてるってこと?」
『え?付き合ってなんかないけど』
「じゃあ…俺、」
『ごめん、じゃあ私も行くね!またね』

もたもたしてる間に御堂筋くんがもう遠くになってる!早く行かなきゃ。そう思って急いで別れを告げて追い掛ける。
あ、付き合ってるってことにしとけば良かったかな?いやいや、後から面倒臭いことになったら嫌だしここは否定しといていっか。後から御堂筋くんに怒られたら怖いしね。
なんでボクとなまえが付きあわなアカンのや?キモォっとかさ。なんか本当に言いそう。

『御堂筋くん!ごめん、ありがと』
「……ほんま鈍臭いな」
『えへ…すみません。お待たせしてしまいまして』

御堂筋くんが迎えに来たって事はもう走り終わって補給に来たってことだもんね。さすが御堂筋くん、早い。
一つ持つよってカゴに手をかけたけど、そのまま歩いて行ってしまって置いてかれた。

『ちょっと御堂筋くん?』
「君、無防備すぎや」
『はい?』
「わからんなら、ええわ」
『ちょ、ちょっと置いてかないでよー!』

すたすたと振り向きもせず、歩いていく御堂筋くんに置いてかれないよう小走りするけど、部室に戻るまでスピードを緩めることはなかった。
なんか機嫌悪い?そんなドリンクくらいで怒らなくても…。意外と短気なのかな、御堂筋くんって。
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