06
あれから、御堂筋くんは毎日のように私にべったりするようになった。今までの御堂筋くんから言ってあり得なくて我が目を疑ったけれど、どうやらこれは現実らしい。
とゆうか、恥ずかしくてどうしようもなくて毎日辛い。声になんて出して言いたくはないけど私はどうやら御堂筋くんを完璧に男の子として見てしまっているみたいだ。
きっとそれすらも御堂筋くんの策略かと思うと、悔しくてたまらない。私は御堂筋くんのこと別に好きなんかじゃないから!

「はよ、ドリンク作らなボク喉カラカラやわ」
『御堂筋くんの事情は知りませんから』
「へぇ、そないなこと言うんや?」
『ぎゃっ』

にやりと綺麗な歯並びを見せつけるかのように、笑ったと思ったらそのまま後ろから抱き着かれた。きゃー!とかではなく濁点のついた悲鳴が出るあたりは私らしいけれど、心臓に悪いから本当にやめてほしい。
ぎゅっと顔を首元に埋められて、くすぐったくて身体をよじると気づいてくれたのか顔だけは上げてくれたけど腕は私の腰に回ったまま。
そんなにくっつかれたら、心臓がバクバクしてるのバレそうで怖い。バレたら絶対冷やかされるのは明白なわけだし。
とゆうかこんな真夏に人にくっついて、御堂筋くんは暑くないのだろうか。そういうの1番キモいとか言うて嫌がりそうなのに。

『はい、出来たよ』
「飲ませてや」
『は…?』

いやいや、本当に暑さで頭やられてしまったんじゃ?だからこんな御堂筋くんらしからぬことしてるとか?
どこの甘えんぼうだとツッコミたくなるほど、あたかも自然にそう言いのけた御堂筋くんは私の反応は無視して、早くと言わんばかりに口を開けている。鯉みたいだな、って思ったことは内緒にしとこう。

『ねえ、御堂筋くん最近おかしくない?暑さでどうにかなったんじゃ…』
「ボクのどこがおかしい言いはりたいん?」
『どこって、……前はこんなくっついてきたり飲ませてなんか言わなかったじゃん』
「あかんの?」
『ダメとかそういう問題じゃなくて、』
「じゃあ嫌なん?」
『嫌というか…、』
「嫌やないんならええやろ」

良くないし!なんとなく察してよね!
一応御堂筋くんとはいえ、男の子なんだから、さ。付き合ってもないのにそんなことされたら困るしそういうのって慣れてないからどう反応すれば良いかもわからないし、そういうのはせめて分かってよね。
さっきよりももっと大袈裟に身体をよじれば、ようやく解放してくれて、動きやすくなった。

『さて!私は他の皆にもドリンク配らなきゃなので、御堂筋くんも早く行っておいで!』

今の隙だ、そう思ったから御堂筋くんの背に回り込んで入り口に向かってその背中を押した。一緒にいなければ、何もされない訳だし楽だ。さっさと出て行ってもらおう!



「あれ、みょうじ?」
『…齋藤くん。』

なんで齋藤くんがらこんなところにいるんだろうか。あんまり関わりたくないんだけどなぁ。
この前のこともあるし、御堂筋くんが言うように私のことが好きとかはないにしても気まずいいし、変な濡れ衣を着せられるくらいならあんまり仲良くしない方が得策だと思ってるのに。

「今日は御堂筋おらんのや?」
『うん。御堂筋くんは走りに行ったよ』
「そっか。最近いつも御堂筋おるから、さ」
『そうかな…?』
「おん。せやから中々声も掛けられへんかったわ」

声かけようとしてたのか、と思ったけどそれももしかして御堂筋くんの策略かと考えたらちょっと怖くなった。でも、私自身も教室でもあまり関わらないように意識してたから話すのは久しぶりな気がする。

『てゆうか齋藤くん部活は?』

今日は何か貸したりしてないし、用事もないはず。バスケ部の体育館とうちの部室は離れているから何かない限り偶然通りかかったなんてあるはずないし。

「今は休憩や」
『なんで、こんなところに?体育館からここって結構距離あるけど』
「あー…いや、まぁ。ちょっとみょうじと会えるかななんて思うて」
『え?』

ちょっと、ちょっとそういう展開いらないよ…そんな少女漫画みたいな展開あり得ない!てゆうか私そんな仲良くもないのに好きになられるような要素ないし容姿も並だ。体型だって並のはずなのに。

『あ、あの…私』
「はいはいそこまでやで」
『え?え?』
「……御堂筋」
「なんや文句あるん、齋藤くん?」
「文句もなにもなんやて君はそうやって邪魔してくるんや?」
「そっちこそ、こそこそキモいわぁ」
『ちょ、ちょっとやめてよ!何の話してんのよ!』
「なまえは黙っとり」
『いいから!』

もうやめてよね!いたたまれなくなって、御堂筋くんの腕を引っ張ってその場から離れた。齋藤くんは自分で戻ってよね。
ぐいぐいと筋肉がある割りに細く長い御堂筋くんの腕を力いっぱい引っ張れば、最初は嫌がって踏ん張っていたけど諦めたのか大人しくついてきてくれた。良かった、あの場にあれ以上いるのはごめんだ。
自意識過剰ではないつもりだから、そんなはずないって思ってたけどあそこまで言われて見つめられたら本人から言われなくても分かるよ。あー、どうしようめんどくさいことになりそうな予感。

『御堂筋くん、お願いだからややこしいことにしないでよ』
「ややこしいってなんや。ボクは助けてあげたんやで」

まぁ、あのまま御堂筋くんが来なかったら雰囲気で告白でもされそうだったかもしれないし…助けてもらったと言えばそうなのかな?いやでも、

「なあ、」
『なに?』
「なまえはあいつのこと好きなん?」
『なんでそうなるの?』
「やって、あの態度なんなん?」
『あの態度ってなによ、てゆうか御堂筋くんの方がなんなわけよ?』
「せやったら、ボクがおるんになんでなん?」
『……え?』

ボクがおる?ってなに言ってんだろう。え?私たち付き合ったりしてないよね?本当最近の御堂筋くんおかしくない?
いや、私もおかしいのかもしれないけど。こんな場面で赤面するなんて。

嘘だぁ、
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