07
「なぁ。わかっとるんやろ?」
『な、なにが…』
「齋藤がなまえのこと好きやってボクが言ったのがほんまやってことと、ボクが好きやってことや」
『御堂筋くんのことなんてすすす好きなんかじゃないし!ちょっと自意識過剰なんじゃないの!?』
「……ボクが、なまえのこと好きやって意味やってんけど?」

ボクのこと好きになったん?にやり、いや、にんまりと御堂筋くんは口角を上げて目を細めた。ヤバい。どこがヤバいとか具体的なことは言えないけど、自分の身が危ない気がした。
しかも相手は御堂筋くん。ん?でも御堂筋くんだから危ないのかな?わからないけどとりあえず私は後退りした。

「紅くなったり青くなったり、忙しい子や」
『う、うるさい…!』
「なまえはかわええなぁ、ボクと違って表情豊かや」
『ちょ、ちょ、近い!近いから!』
「なぁ、さっきのどういう意味?ほんまにボクのこと好きになったんとちゃうん?」
『う、うるさい!』
「否定しんあたりが期待してまうで」

じりじりと下がっていた足は、トンと私が背中をついたことでそれ以上進めなくなった。どうしよう、私が止まってもじりじりと御堂筋くんが近付いてくるのは止まらずだんだん2人の距離が近くなっていく。
これは……いわゆる、壁ドンだ。
なんだって私が御堂筋くんに壁ドンなんてされてるの?絶対御堂筋くんが私を好きとか、信じられないんだから。きっと私が好きとか言ったらやっぱり騙されたなとか言って嘲笑うんじゃないの?
馬鹿、馬鹿。なんで、意思を無視して顔赤くしてるん私。なにこれ好きってことな訳?
無理や、御堂筋くんが好きとか無理。

「なぁ、そんな林檎みたいな顔して否定もせんと、黙ってるんは肯定とみなしてええんやな?」
『ちがっ!』
「じゃあなんやねん、ボクにだけ態度違うやん」
『…だって』

そんなの分からないよ!と言いたかったけど、御堂筋くんが寂しそうな顔なんかするもんだから思わず言葉を飲み込んでしまった。
いつも見ないくらい近付いたままの御堂筋くんの顔は、綺麗なまん丸の目と綺麗な歯並びの口と、少しだけ下げた眉で私を見つめた。意識すると本当にきりがない。もしかしたら…認めたくないけど、私は御堂筋くんを好きかもしれない。多分。
でも、信じたくない以前にこれは錯覚なのかもしれないし、経験がないから比べることも確信することも出来なくてもどかしい。

『ひゃ…!』
「眉間、しわ寄ってるで。」
『御堂筋くんのせいでしょ!離れてよ!』
「いや〜や」

急に眉間を触られてビクッと身体が跳ねた。びっくりした…、本当やめてほしい…ちょっとこれは。

「なぁ、難しく考えんといてや」
『え?』
「ボクもこんなんほんまなら興味ないんや。難しく考えたらボクもわからん」
『なら、なんで…』
「せやけど、そういうもんなんや。興味ないけど、面倒事なんて嫌やけど、なまえが他の男に笑うんもボク以外に優しくするんも、見るだけで寒気がするんや」
『え…』
「ボクだけに笑えと思うし、ボクだけが触れたいし、ボクだけが抱きしめたい。それってそういうことやろ?」
『た、多分…』
「せやからそういうこと」

そう言って御堂筋くんは、満足したかのように少し目を細めて笑ったかと思うと、壁についていた腕はいつの間にか私の背中に回っていた。びっくりし過ぎて、声にならない声が出たけど、それよりも抱きしめる腕が壊れ物を扱うみたいに優しくて、その事にびっくりして声が出なかった。御堂筋くんのくせにこんな優しくとか卑怯。心臓がバクバクさっきより幾分も早くなって、胸が痛い。

「なぁ、こうしたらボクは心臓ドキドキいうで」
『聞こえてる…から』

そう、御堂筋くんもドキドキしてるんだ。ちょうどこの体勢だと私の頭は御堂筋くんの胸にすっぽり収まってしまって、彼の心臓の鼓動は嫌でも聞こえてくる。私より早いかもしれない。
でも顔は私の方が赤い。真っ赤。

「好きとか嫌いとか、理屈やないで。君ももうわかっとるんやろ」
『な…!な…!』

ちゅ、と短なリップ音とともにおでこに柔らかい感触がした。キスされたと気づくのに時間はかからなかったけど、言葉は出てこない。な、なんで…!
だけど、してやったりとでも言うような顔を浮かべた御堂筋くんはようやく私から離れてくれた。

「ほな、ボク行くわ」

なぁ、嫌やなかったんやろ?
にんまり、そう意地悪そうに御堂筋くんは笑った。……そんなの全然わかんなかったよ!
ALICE+