08
やばい、やばい。ピンチだ。
ただ掃除当番だったからごみを捨てに校舎裏まで来ただけなのに、運悪く見つけてしまった……。なんてこった…御堂筋くんが告白されてる!しかも相手は先輩みたいだけど、めっちゃ美人!てゆうか、なんで私がこんな物陰にゴミ箱といっしょに隠れてるんだろう。でも!私は悪くない!こんなとこで告白しといて絶対誰にも見られないでってのが無理があると思う。ともかく気になるけど、咄嗟に隠れちゃったから出るに出られないし当事者たちが去ってくれるのをこの茂みから見守るしか出来ない。ああ、でも気になる。何話してるんだろ…多分告白だろうなって雰囲気は漂ってるんだけど、遠すぎてなに話してるかまではわかんない!あぁ、もどかしい!けど、今動いたら絶対物音がしちゃうし、ここでバレる訳にはいかない、女の子のためにも御堂筋くんに罵られるであろう私のためにも!
でも返事OK、だったりしたら、どうしよう。……ん?どうしよう?どうしようって、なんだ?どうもしないし出来ないのに今なんでそんなこと考えたんだ私!どうしようだなんてあたかも私が御堂筋くんを好きみたいじゃんか。そんな、そんな!え……私好きなの?いや、いや!
「なまえ、覗きやなんて趣味悪いなぁ」
『…え?』
「そないにボクのこと気になるん?」
『み、み、御堂筋くん、なななんで!』
悶々と自問自答してたら急に声がして、顔を上げれば御堂筋くんが私を見下ろしてた。いちいち近いし、びっくりするしやめて欲しい、ってゆうかバレてるー!
「隠れてるつもりやったん」
『う、うん…だって気まずいでしょ』
「ふーん、気になったんや?ボクが告白されとるんが」
『そういうわけでは!』
「ボクがOKすると思って?」
『でも美人だったね…』
そう言うと御堂筋くんは私の目線に合わせて同じようにしゃがみ込んできた。さっきまでの覗き込むように見下ろされてたのと距離感は変わらないのに目線が合わされただけでなんだかこっちのが照れ臭い。それに、これじゃあ視線を外せない。
「いいかげん、ボクも怒るで」
『な、なんで…』
「ボクな、手に入れたいもんがある時はどんな手段でも使うんや。それはなまえなら知っとるやろ?ボクの性格やって」
『うん、知ってるけど』
「そのボクが。なまえにはちゃんとしてるつもりなんやけど?」
『え、』
「このボクがなまえにはちゃんと馬鹿正直な手段とってるんやけど?」
な、な…!
顔がボンっと音を立てて爆発したような気がする。こんな一瞬で沸騰したみたいに熱くなることがあるなんて、知らなかった。
「好きやって言って、返事待ってるなんて普段のボクならあり得んよ、キモすぎやわ」
なぁ、そう思わん?
ゆっくりと御堂筋くんが更に近付いてくる。私のこの真っ赤な顔は肯定しているようにしか見えないはずで、だから余計に恥ずかしくて、隠したいのに動けない。この前と違って後ろはガラ空きで逃げれるはずなのに、身体が動こうとはしてくれない。だけどここで、御堂筋くんにここまで言わせて逃げてたら私は最低な奴だ。
そうだ、御堂筋くんが私を好きとか信じられないし嘘だと思っていたのは多分、御堂筋くんらしくなかったからだ。御堂筋くんらしくない、さりげない好意と冗談のような告白の流れ。普通の男子みたいだもん。御堂筋くんなのに。だから騙されてるんじゃないかって、怖くて信じたくない部分があって…、でもそうじゃなかったんだ。だけど、やっぱり私が御堂筋くんを好きっていう実感なんか…
「……ほんまにあっちと付き合うてみようかな」
『!』
「ええやろ、ボクなまえにふられたんやし」
『だ、だめ……!』
「なんで?ボクが他の奴のもんになると思うたら惜しくなったん?」
『……そ、そうだって言ったらどうするの?』
「それでもええわ」
『は?』
ぎゅう、と間髪入れず抱きしめられた。痛い、というか苦しい。自分が言ったことが恥ずかしくなってごまかすために肯定しただけなのに、御堂筋くんの答えが予想もしない返答でこっちが戸惑ってしまう。てゆうか、!なに!こんなとこで抱きつくとか!は、恥ずかしいし!
……ああ、でも本格的にもう認めざるを得ないかもしれない。しれないというか、そう。私、御堂筋くんが好きだ。抱きしめられるのも苦しいとか思うけど嫌じゃないし、むしろ……いや、これは考えたら恥ずかしくなるからこれ以上はやめとく。
「ボクのこと好きやろ?」
『……認めたくないけど』
「はぁ?この口がそないなこと言うんか?」
むにっと両頬を抓られた。でも全然痛くない。なんだこれ。御堂筋くんとこんな甘々な雰囲気とか、なんかむず痒いし御堂筋くんも普通の男の子だったんだと思うとなんか可愛い。
「なぁ、言ってや」
『なにを』
「ボクのこと好きやろ」
『……うん、好き』
……多分。って恥ずかしくなって間が空いてから付け足せば、はぁぁ?って御堂筋くんがいよいよ不機嫌そうな顔をした。だって!まだ、そんないきなり、今さっきようやく好きって分かって、認めたんだからそんなハードルの高いことさせないでよ。
あー……でも御堂筋くんが私にだけ、とか結構すごいし、やばいよね。そう考えたら、余計に照れそうになったから止める。
「ボクはなまえのこと好きや、ずっとな」
『…ちょ、……そういうの恥ずかしい』
「ボク、となまえがおれば他いらんし」
『ロードは…?』
「はぁ?ロード?なんやロードに嫉妬するつもりなん?」
『いやだって他いらないって…』
「人間の話や、バカやなぁ」
『バカってひどい!』
てゆうか、とっくの昔に皆掃除終わって部活始まってる時間ですよ、御堂筋くん!とりあえず戻ろうよ。は?翔って呼べ?いやいや、無理!そんな急に!え!ちょ、顔近づけてこないで!
……もう結局こんな感じなのは変わらないのかもしれない。先が、思いやられる気がしたきた。けど、でもまぁ、いっか。