03

恋は人を臆病にさせるものだと思う。巻島くんを好きだと気付いてから、早数日が経ってしまった。相変わらず、巻島くんとの会話はほとんどない。今日も明日も明後日も、このふわりと揺れる髪を眺めるだけの1日になってしまうのかな、なんて考えると少し胸が痛くなった。

「はぁ……」
「なに、恋する乙女な自分に浸ってるの?」
「浸ってないよ。でも恋する乙女なのは事実だから浸ってるのかも」
「クラスで話せないなら、部活見に行けば良いじゃん。もしこっちに気付いてくれれば万々歳だし、そうじゃなくてもカッコイイ姿見れるじゃん?」
「その手が…!あったか!」
「いや、普通はもっと早く気付くでしょ」

部活姿の巻島くんは制服姿の時より、さらに細く見える。身体にぴちっとフィットしているユニフォームは彼の骨格の細さを強調してて、見てる私が照れてしまいそう……なんて言ったら、その発想が気持ち悪いと一蹴されてしまった。でも、テニス部や野球部みたいにコートやグラウンドがあるスポーツではないし、どう見学すれば良いのか考えた末に私は、3階の校舎から部室の方を覗くことにした。3階ならあまり気付かれないだろうし、思いのほか見やすいし、私ってば冴えてる!

綺麗なグリーン色の長い髪を巻島くんは束ねることなく、ちょっとだけ掻き上げてヘルメットを被った。これから走りに行くのかなぁ……そう思った瞬間にバチっと目が合った。
え、え……え!なななんで、なんで気付いたんだろう?!慌てて私はわざとらしい事は分かっていたけど、偶然目が合ったようなふりをして、手を振ってみた。すると巻島くんはそれに反応することもなく、私から視線を外して、そのまま走り去っていった。
……私馴れ馴れしすぎたかな?でも、後悔しても時既に遅し。馴れ馴れしい奴って思われちゃったかもしれない。ああ……、もうショック。

かきあげる髪

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