09

お昼休み。予鈴には少し早かったが、昼食を終えて来たから席に着いた。少しして、クラスメイトと楽しそうに話しながら教室に入ってくるあいつの声が耳につく。

「あ、」
「?」
「巻島くん其処、絡んでる」
「……ここか?」
「ん〜、ちょっと待って」

いつものように、突如として現れて俺に声をかけてきた。適当に指された後頭部に手をやると、違ったようで遠慮がちに自分の手を伸ばしてきた。誰かに髪を触れるのは想像以上に、その相手の事を自分がどう思ってるのか顕著に表れる、と思う。
少しずつ、ほんの少しずつ。でも確実に俺とみょうじとの関係は変化している。それは良いことなのか、スピードは速いのか遅いのか、比べるものなんて持ってないから分からねぇけど、それでも心地は悪くなかった。
あぁ、でも、こういう不意に自覚させられちまうのは反則。

「…あ、ほどけた!良かった〜!」
「……良かったって、お前が絡んで痛いわけじゃないショ。そんなに喜ばれても困る」
「そうだけど、巻島くんの綺麗な髪好きだから、ね」
「綺麗?そんな風に言われたことなんて、」
「ね、このまま梳かしていい?駄目?」
「駄目……じゃないけど、それ、何か楽しいわけ?」
「うん」

ふーん、とどうでも良いような、力ない声が出た。本当にどうでも良いわけはないが、焦ったこの感情を押し込んで隠すには、それくらいしか出来なかった。

梳かす髪

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