「なんか、靖友とあったのか?」
どきり。あまり見てないような顔をして、新開くんは鋭い。いつも何食わぬ顔で核心をついてくる。悟られないようにしてきたつもりなのに、こうもあっさり見抜かれると面白くないけど、相談するなら今しかないとも思う。
ここ最近、意図してるつもりはないけれど荒北くんのことを避けてしまってる。やりたいと思ってるわけではないのに、何故だか最初の頃に戻ったみたいに話せなくて、空気に耐えられなくなってしまって意味もなく逃げてしまってる。
前と一緒。声を掛けるのも話しかけるのも、ドキドキして出来ない。
「……へえ。なまえからそんな相談されるなんて、思ってもみなかったな」
『結構真剣に悩んでるんだけど……』
「……だってよ、靖友」
教室に2人だけだと思っていたのに、にやりと口角を上げた新開くんの視線が入口に向いた。その視線の先を恐る恐る追うと、その先には荒北くんが立っていた。びっくりしすぎて開いたままの口から間抜けな声が漏れでる。え、なに、なんで荒北くんがいるわけ?悩みの種を張本人の前で相談してたってこと?
いや、それよりもいつから聞いてたんだろうか。怖くてそんなこと聞けないけど、ちらっとだけ盗み見した荒北くんの顔はなんとも言えない表情をしていた。あぁ、ということは少なからず、状況把握できるほどには聞かれてる。
「俺から、答えを教えてあげることは簡単なんだけどさ、それって意味ないから自分で靖友に伝えるなり解決してくれるか?」
『え、それって全然相談に乗ってくれてない……』
せっかく相談したのに相談損なわけ?本人に、っていつにも増して荒療治すぎるでしょ、私の意思は?とか色んな台詞が頭を駆け巡っていくけど、荒北くんがこの場にいると思うと下手に発することは出来なくて、苦虫を噛み潰したような顔になっていくのが分かった。
「まあ、じゃあそういうことで」
『え、ちょ……新開くん!』
「……それで、」
『っ!』
「最近様子がおかしかったのは何が原因だったわけヨ?」
新開くんが、こちらを振り向きもせずにひらひらと手を振って去っていって、それと入れ替わりで荒北くんが私の前の席に腰掛けた。新開くんが居たときと同じ距離感のはずなのに近く感じて恥ずかしくなってくる。ほらやっぱり、最初の頃みたいに感覚が戻ってしまったんだ。
『理由は分からないけど、……最近荒北くんといると変な気持ちになるの。最初の頃みたいに声掛けるのも大変だしドキドキするし、……なんだかせっかく仲よくなれたと思ったのに振り出しに戻っちゃったみたい…』
少し前まで平気だったのに、いつ戻ってしまったんだろう。やっぱり顔は直視できないけど、いつからだっただろうと目の前に映る赤いネクタイを見ながら思い出す。
この前、強引なあの子に呼び出された時は平気だった。むしろ、怖かった気持ちが荒北くんが来てくれたことで安心に変わった。よくやったと、褒められて触れられた手は心地よかった。
でも、それからだ。それ以降から荒北くんの顔がまともに見れなくて、前みたいにドキドキしてしまうようになった、と思う。
「あー、そういうこと、ネ」
『それってどういう……?』
私自身がイマイチ把握してないのに、なるほどと言わんばかりの声色で頷かれるのが分からない。思わず感情に逆らわない表情筋が、顔に出したみたいで笑われた。
「だから、俺のこと意識してる…って言ってるように聞こえたんだけどヨ?」
ボッ!という音が鳴った気がした。カァァなんて可愛い擬音なんかじゃなくて一瞬にして顔に火が付いたように熱い。穴があったら入りたい気持ちとはこういう事を言ってると思う……。
あぁ、そういうことかと一瞬で認識できたと同時に、引くくらい馬鹿すぎることに気付いてしまった。この場から消えてしまいたい。
「……顔真っ赤すぎ、こっちまで照れんじゃネーカ、」
『ご、ごめんなさい…』
荒北くんと友達に……って頭にずっとあったから、そっちの方向になんて少しも考えてみなかった。言われて気づくなんて恥ずかしすぎるけど、思い返せばどうしてそこに至らなかったのかと思う。去り際の意味深な新開くんの表情を思い出して、そりゃそうだと納得だし、思い込みの激しい単純な自分にに嫌気がさした。
「とりあえず、落ち着け」
何も言ってないのに、私の脳内が見えてるのかと思うくらいのタイミングで声と手の平が降ってきた。ずしりと頭に重みがかかるけど、全く嫌な感じはしなくて、むしろ本当に言葉の通り少し気持ちが落ち着いていく。
「とりあえずヨ、"お友達"ってヤツの次のステップに進んでイイヨっつうことでオッケー?」
『次のステップ、』
「そ。お友達になるっつー計画はここで終了でいいダロ?じゃないと困る」
なんでと聞く前に、そうじゃないとお友達以上のことができないから、と見たこともないくらいに照れたような顔した荒北くんが呟いて、それにつられるようにして再び私は沸騰したような熱さに見舞われた。
具体的にこのあとどうなりたいとか、その、先に進んで良いのかとか、色々頭を駆け巡るけど答えはパッと出てこない。でも少なくとも言えるのは、私と荒北くんの"お友達計画"は終了ということだけ。
お友達の先は、一体どんな風になるのだろうか……と考えても分からないけど、とりあえず、寿一には報告しなきゃなぁと火照った頭でぼんやりと考えた。