うん、やっぱり無理。
というか、荒北くん一人なら大丈夫な気がするのに誰かと一緒にいると、もう駄目だ。
こそこそと荒北くんの教室の前で、様子を伺うけどいつまで経っても勇気は出ない。荒北くんが一人になるような様子もない。
……今日は諦めようかな。三人でも良いじゃない。うん。
新開くんには何か言われるに決まってるけど、私からお昼一緒に食べようって誘うのはハードルが高すぎたんだよ、絶対。寿一や新開くんと集まるから荒北くんも、って言えば良いって寿一が気を遣ってくれたのに申し訳ないけど。しょうがない。
荒北くんだけなら多分大丈夫だけど、他の知らない男子いるとか無理無理!

「なまえなにしてるの?」
『え、…あ!あーちゃん!』

後ろから声を掛けられて振り向くと、中学から一緒な、あーちゃんが立ってた。そういえば、あーちゃんは荒北くんと同じクラスだったんだった。

「誰か用があるなら呼ぼうか?」
『え…あ、いや』
「だれ?」
『い、いいの!いいの!』

そんな、荒北くんの名前なんて出せない!というかこの状況で呼んでもらったら、注目浴びちゃうよ!
大丈夫!大丈夫だから!と大袈裟に断ると、遠慮しなくて良いんだよ?ってあーちゃんも引き下がらない。あー、もうどうしよ…

「なにしてんだヨ」
『え…? え!ええええ!』

あ、荒北くんなんで…!なんで、いるの!?
言葉が声にならずに、口だけがパクパクと動く。さっきまで向こうにいたはずなのに、いつの間にこっちへ来たの?
言葉にしてないのに、私の考えていることを読み取ってくれたのか、それとも私の顔にでも書いてあったのか、荒北くんは乱暴にたまたまだっつーの!とそっぽを向いた。

「なんだ、荒北に用事だったの?」
『え?あ、いや、ちが……うん……そうなんだけど……』
「そ?なら良かった」

あーちゃんは行かないで、と思う私の心は読み取ってくれなくて、爽やかな笑顔で教室の中へ入っていってしまった。
う……気まずい。心なしかちらほらと見られている気がする。この前、初めて話したときもこのくらい注目浴びてたんだっけ? 思い出してみるけど、あの時はもっと緊張してて全く周りのことなんて覚えてない。
そう思えば、やっぱり私はここ最近で大分成長したんじゃないかと思えてくる。いや、きっとそのはず!
さぁ、成長した私よ、ちゃんと言うのだ!荒北くんに、今日のお昼は皆で屋上で食べようよって!

「で、俺に用事なんだろ?なまえチャン?」
『ひっ…』

びっくりしすぎて変な所から声が出てしまった。自分でも驚いてしまう。
いや、それよりも何よりも、荒北くん今なんて言った?え?え? なまえちゃん…?え?なまえちゃん? 荒北くんが私のこと名前で呼んだの……?
えええええええ!ま、まさか!なんで?!なんで?!

「どうせまた、新開になんか言われて来たんだろ?」
『あ、違……くはないか、あの……』
「それで?何だヨ」
『あの……お昼をね、ひっ!』
「荒北ー、辞書持ってるかー?」
「アァ?持ってねーヨ、今日授業ねぇだろうが」
「まじかよ〜」
「ていうか、お前そいつから離れろ。生まれたての子鹿みたいダロ」
「ん? ああ、ごめんごめん」

ようやく、しらない男の子が私の背中から離れた。触れてはないけど、それに近いくらいに荒北くんとの間に私を挟んで会話をするから、動けなかった。というか、動いたら触れそうな距離だった。

「小さくて気づかなかったや、荒北が女の子といるなんて思いもしなかったし。ごめんな?」
『あ、だ、大丈夫です!気にしないでください!はい!』

勢いよくそこまで返事した所で予鈴が鳴って、名前も知らない彼は、手を振って去って行った。あれは荒北くんに振っているんだろうけれど、私ももしかして含まれていたりしないかな、と思って咄嗟にお辞儀だけしといた。
というか、やばい。結局まだ何も言えてない、し、伝えれてない。

『あ、荒北くん……! あの、』
「アァ? ……ったく、言いたいことあるんなら聞いてやるから昼休みにしろヨ」
『へ……?』
「どうせ新開やら福チャンと昼飯食うんだろ? いつもの屋上って伝えとけヨ」
『あ……はい…』

何も言う余裕もなく、そのまま荒北くんは教室の中へ戻って行って、私は移動教室なんだから急ぎなよ!と、私の分の教材を持って呼びに来てくれた友達に、半ば連れて行かれるようにその場を離れた。

あれ? これって、上手いことなっちゃった感じ? あ、でも新開くんにバレたら何か言われそう…。いやバレるし、言われるか。
……ま、いっか。しょうがない、ってことにしよう。

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