最近、俺の周りをチョロチョロする女がいる。うざってぇーけど、嫌じゃない。小動物みたいな風貌に、すぐビクビク怯える姿はまるでうさぎが何かみてぇだといつも思う。

「なまえが明日、靖友に会いに来るかもしれないから、その時は優しくしてやってくれ」
「アァ? まった何企んでんだっつーの」
「そうだな……皆で屋上で昼飯、ってのも楽しいかなってね。なにせ明日はいい天気みたいだ」
「……新開おまえよく世話焼いてっけどヨ、楽しいわけかァ?」
「まぁね、なまえって面白いじゃん」
「…そうかヨ」



昨日の新開の台詞を思い出した。
昼飯の誘いに来るっつー事は、午前中のどこかに来るってことか? あんなビクビクしてる奴が、俺のクラスまで来て俺を呼べるのか?
無理そうだけどヨ……新開も意外と無茶言ってんじゃねぇか?
本当に大丈夫か、心配してるわけじゃねぇけど、不意に教室の入口に視線を向ければ、狙ったかようにいた……。案の定キョロキョロと教室内を見回しては、ドアから頭を引っ込めておろおろとしてる。
俺に声をかけたいのに、かけれなくてウロウロしてるのかと思うと、その光景が面白くてちょっと笑ってしまいそうだ。なまえは面白い、か。確かにそうかもしれねェ。

急にクスリと笑ってしまって、一緒に会話をしていたクラスメイトの1人がびっくりした顔して俺を見た。
ウゼェ……俺だって面白ければ笑うっつーの。しょうがねぇ…、いつまで経っても声なんかかけれません、って顔しやがって。本当にヤル気あんのかァ?

「何してんだヨ」
『え…? え!ええええ!』

漫画みたいな大袈裟にびっくりした顔をして、後ろに後退るもんだから、思わず吹きそうになったけど、なんとか堪えた。
隣にいるのは、クラスの女子か? 俺とこいつを見比べると、1人で納得してように中へ入って自分の席へ戻っていった。なんだ、お前友達いるんじゃねぇか。
いや、女子の友達は普通にいるのか? いやまぁ、そんなことはどうでもいいんだけどヨ。

「で、俺に用事なんだろ?なまえチャン?」

びっくりしたように元々大きめの目が見開かれた。アァ?なんか変なこと言ったか?
あわあわと口も鯉みたいにパクパクさせ始めて、この顔……最近よく見掛けるようになったわなァ…とまじまじ見てしまう。だけど、待っても何の反応もしねぇから、間が空いたがまた俺から問いかけてやった。
本当こいつ大丈夫か?普段どうやって生活してるんだヨ…こいつ。

「荒北ー、辞書持ってるかー?」

急になまえの後ろから知った顔が覗いてきやかった。こいつも驚いたみたいで、ビクッと肩をあげたが、何も言わず黙ったまま。

「アァ?持ってねーヨ、今日授業ねぇだろうが」
「まじかよ〜」
「ていうか、お前そいつから離れろ。生まれたての子鹿みたいダロ」
「ん? ああ、ごめんごめん」

もしなまえが後ろ向いてたら、所謂壁ドンみたいな体勢なわけで、なまえも自分でそれくらい言えねぇのかってイライラした。
早く離れてほしいって顔してるくせに。ホッとしたような顔しやがって。俺がいなかったらずっとそのままのつもりだったわけかァ?

俺のイライラに気付いたのか、そいつはさっさと戻って行ったが、それと同時に予鈴が鳴った。
……ったく。ちんたらしてっから、時間食っちまったじゃねェか。

『あ、荒北くん……! あの、』
「アァ? ……ったく、言いたいことあるんなら聞いてやるから昼休みにしろヨ」
『へ……?』
「どうせ新開やら福チャンと昼飯食うんだろ? いつもの屋上って伝えとけヨ」

なまえは豆鉄砲くらったみたいな顔で、一瞬固まった後に小さく頷いた。……これ新開にバレたらからかわれるな。
なんだって、俺が気を遣ってやってんだか。ただ言えるのはイライラさせるくせに、俺はこいつが嫌いじゃないどころか、結構気に入ってるってことだ。だから調子狂うんだわ。

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