「ねえ、最近荒北と仲良くない?なんかあった……?」
さすが親友なだけはある、と親友の問いかけに見当違いに感動してしまった。仲良いね、だけじゃなくて何かあった?という所がポイント。ちょっと感動しすぎて、うるっとなる。
思わず名前を呼んで腕に縋りついたら、呆れた顔をしつつもポンポンと頭を撫でてくれた。
荒北くんのお願いを聞いてから2週間が経って。少しは慣れてきたけど、あの女の子からの睨むような視線と聞こえるように話す嫌味にいい加減疲れてきた。
私が予想していた、彼女のふりは実行されてはいなくて、実際には荒北くんの好きな人が私…、という予想よりも遥かにおこがましいというか、恥ずかしい設定で過ごすことになってしまってる。
それならば、もう付き合ってるっていう方がマシなような気がしないでもないけど、理由を聞いたら「付き合ってるって言ったら、実際にそれらしいことしないといけねぇだろ」って言われて、想像して初めて荒北くんが気を遣ってくれたことに気付いて、恥ずかしくなった。
言われるまで気づきもしなかった自分も、想像した内容も、どっちも顔を熱くするには充分で、今思いだしただけでも頬が火照りそう……。
『……ってわけなの』
「なるほどね、どうせ福富にも言えなくて1人で溜め込んでたんでしょ? それにしてもなまえがねぇ。新開も訳分かんないことするなって思ってたけど、まあ、あながち間違いじゃなかったってことね」
『あ〜、荒北くんと友達に…ってやつ?』
私も最初は何言ってるの?って感じだったし、無理って思ってたけど、今となれば荒療治とは言えなんとかなるもんだなぁって思う。
とはいえ、荒北くん以外にさらに男友達増やしたいとか、もう誰でも来い!ってなってる訳ではないけれど。
『あ、でもこのこと皆には内緒ね?』
「もちろん。荒北にだって言わないからそこは安心して」
『ありがとう〜』
「ねぇ〜、みょうじさんちょっとイイかな?」
『……え、わたし?』
「うん、ちょっと話したいことがあるんだけど、一緒に来てくれる?」
突然振ってきた猫撫で声に、思わず返事が上擦る。あの子、だ。あの、手紙の子。
睨まれたり、嫌味みたいなことを言われても直接声を掛けられることはなかったのに、何を考えての行動か分からなくて怖い。
「それってここじゃダメな訳?」
「うん、ここじゃちょっと話せないの。あなたにも聞かれたくないし」
だから、ついいてきてくれるよね?と、笑顔で無言の圧力をかけられてるのがヒシヒシと伝わってくる。正直、どう考えても楽しい話なわけはないから出来るなら行きたくはない。
けど、行かないなんて言っても納得してもらえないんだろうな……と半分諦めようと思ったところで予鈴が鳴った。
「予鈴鳴っちゃったねぇ。じゃあさ、放課後に屋上来てくれる?もちろん、そのお友達は連れてこないでね?」
『……うん、わかった』
*
はあ、とため息が零れそうになる。
なんで嫌なことしかないと確定されてるような呼び出しに、来なければならないのだろう。
……でも、何を言われるか知らないけど、それでもここで逃げちゃダメ、だ。
『それで…、あの話って……』
「えっとね、みょうじさんってさ荒北くんのこと好きなの?」
『えっ…、な、なんで…?』
「私ね〜…荒北くんのこと好きなの」
『……うん』
「それで、みょうじさんって荒北くんと仲いいみたいだしさ、協力してほしいんだ」
『は、え…?協力?』
「うん!前だって手紙渡してくれたし、協力してくれるよね?だって荒北くんのこと好きじゃないんでしょ?それならいいでしょ?……それとも荒北くんの事好きなの?」
甘えたような声色から、最後の一言だけ急に冷めたような低い声で思わずびっくりした。一体どっちが素なんだろうか。荒北くんの事が絡まなければ、この人の嫌な部分なんて知らずにいられたし、敵意なんて向けられることもなかったんだろう。
「ねぇ、好きなわけ?」
『好き……ではないと思う、というか、友達だよ』
「……そう、じゃあ良いよね?協力してくれるよね?」
なんで、じゃあ協力してくれるよね、になっちゃうのか全然分からないけど、有無を言わせない圧力に片足が1歩後退る。思わず頷いてしまいそうになるのをなんとか堪えた。
……荒北くんのお願いを了承したのだから、これは受けて立つしかないんだ。そう自分を奮い立たせる。
『ごめんなさ、い……わたし、協力はできない』
「え、なんで?好きじゃないんだよね?なんでダメなわけ?」
『好きじゃないなら良いとか、そういう問題じゃないと、思うから』
「は?でもやましくなんてないなら協力くらいできるじゃん?!やっぱり好きだから嫌なんじゃないの?」
『……好きだからじゃなくて、荒北くんは友達だから……荒北くんの気持ちを無視したくないの』
「なにそれ……?自分が荒北くんに好かれてるからって調子に乗ってんの?」
『そういう訳じゃ、』
「ムカつく…!」
恐る恐る言葉を選んだつもりだったけれど、やっぱり気に障ったみたいで彼女の右手が動いた瞬間、叩かれるのかも、と反射的に目を強く瞑る。
……けど、パシっという小さな音が聞こえただけで衝撃が来ることはなかった。
『え…、』
「あ、あ、荒北くん……わたし、そ、そんなつもりじゃ、」
「言い訳なんて聞かねェヨ」
振り上げられた手は、私に触れる前に荒北くんによって制止されていたようだった。そして彼女は先ほどとは一転して怯えたような表情になっていた。それとは逆に荒北くんが纏う空気がピリピリしているのが分かる。いつもより、怖い。
そう思ったのは私だけではなかったようで、ごめんなさい!と、言い捨てるかのように走り去って、屋上には荒北くんと私だけが残された。
『あ、あの……荒北くん、』
「……やれば出来んじゃん、なまえチャンヨォ?」
『……っあ、りがとう』
叩かれると思った瞬間、怖かった。怖かったのに、荒北くんがよくやったな上出来だと言って褒めて笑ってくれただけで、なんだか安心した。
そしたら、遅れて動悸がしてきて視界も急に歪む。あぁ、もっとちゃんとお礼を言いたいのに無理そうで、ごめんなさいと極々小さな声で呟くことしか出来なかった。