毎日毎日、飽きちゃうの…!


君の執事02





「お嬢様…、では何を召し上がられるんですか?」
『だから、いらない』
「デザートでしたらいかがですか?お嬢様は甘い物はお好きですよね?」
『だから…、いらないの!』

毎日似たような食事にデザートばっかり。
いくらフレンチが好きでも、中華が好きでも、似たようなのばっかで飽きちゃう。
甘い物だってデザートは好きだよ?でも、やっぱり飽きちゃう。
なんてゆうか……もっとしょっぱいお菓子とか食べたいよ。ポテトチップスとかさ。

でも、そう言ったらメイドは困った様に笑うし、執事長は駄目ですの一点張り。身体に悪いとか言ってさ。
毎日毎日糖分たっぷりのパティシエのケーキやら焼き菓子やら、どっちも差ほど変わらないと思うんだけど。

だからそんなのだったらいらないって言ってるだけじゃんか!

「なまえお嬢様、何か食べていただかないと私どもも不安で困ります。旦那様や奥様に顔向け出来なくなってしまうではないですか。」

そう言って執事長が自らデザートだけでも…と、私の目の前に彩りの良いフルーツタルトの乗ったお皿を置いた。
多分比較的食べやすい様に甘酸っぱいものを選んでくれたんだろうけど、やっぱりそんな気分じゃない。

『……食べたくなったら食べるから。今は良いよ』
「お嬢様…、」
「お嬢、執事長を困らせたらあかんで。」
『え?』

声がした方に振り返るとそこには、でこぼこした鉄板を片手に持った蔵ノ介が立っていた。
蔵ノ介は最近新しくうちに来た執事で、私の専属で…と紹介されたけど正直あまり認めたくなかったりする。

『なんなの……』
「全く…お嬢は我が儘なんやから、困ったもんやな」
『っ…!失礼な!あんたなんか呼んでないんだから、下がりなさいよ!』

この蔵ノ介は来てからというもの、こういう様に物言いがすごく攻撃的で、他の執事やメイドは私に口答えなんかしないし怒らないのに、蔵ノ介だけは怒るし何でも強引で、こっちはたまったものじゃない。

「またそないな言葉使って、あかんやろ?」
『あんたこそ、執事のくせに言葉遣いに気をつけなさいよ!』

本当に何でこの人は執事なのにこんなに偉そうなんだか分かんない…とゆうかそこが気に食わない。

「これが俺のキャラやねん。それに俺を雇ってるのは旦那様や。お嬢に仕えとるけど正式な主人は旦那様やねん」
『あっそ!』

あぁ、もう…話してても埓があかない。呆れて黙り込むと、蔵ノ介はてきぱきとテーブルに持ってきた鉄板を置いてコンセントを繋いで何か準備をしだした。

『……なにしてんの?』
「我が儘なお嬢さまが無理言って皆を困らせるから、こっちも大変なんやで」
『嫌味ったらしいんだけど』
「せやけど、そんなお嬢が食べたくなるもん作ったるわ。よう見ときや!」
『?』


『うわぁ…すごい…!』

思わず声が漏れた。
何をするのかと思った蔵ノ介は、でこぼこの鉄板(正確には丸い穴の凹みがいっぱいある)にどろどろの気持ち悪い液体を入れたかと思うと蛸を入れたりして、くるくると棒で転がして丸い焼き目のついたボールみたいな物を作っていく。

『まん丸になった!なにこれ!』
「たこ焼きって言うんや。食べたことないんやろ?」
『これが?……初めて!』

それはいわゆる一般庶民の食べ物で。
ポテトチップスだとかスナック菓子みたいに食べてみたくても、家じゃ食べれない代物。授業で大阪の名物でもあるって聞いた気がする。

『ねぇ、これ甘いの?しょっぱいの?』
「今から食べるんやから自分で確かめればええやろ」
『教えてくれたって良いじゃん!』

焼き上がったのか、棒で上手く掬って蔵ノ介がお皿に乗せた。
ドキドキして目の前に置かれるのを待ってると、"ちょっと待ちや"とお皿を脇に置いて蔵ノ介がその場を離れた。

『どこ行ったんだろ?』

早く食べてみたいのにお預けだなんて。

……1つだけ。
我慢出来なくてまだ目の前に置かれていないたこ焼きを1つ取って、口に放り込んだ。

「さて、仕上げるで?」
『味うすいんだけど』

タイミングよく戻ってきた蔵ノ介を睨む。やっぱり庶民の食べ物だなんて口に合わないのかな…、じゃあポテトチップスも、スナック菓子も本当は美味しくないんだろうか…だなんて一般的なお菓子に見ていた夢が崩れた気がして、ちょっと泣きたくなった。

「お嬢、そのまま食べたん?」
『……勿体振って待たせるから』

そう言うと蔵ノ介が面食らったような顔をして、いきなり可笑しそうに笑い出した。

『な、なんなの?!』
「そりゃ味気ないに決まっとるわ。…待っとり」
『え?』

すると蔵ノ介は戻ってきた時に持ってきたボトルに入った茶色いソースやかつお節などをたこ焼きに乗せていった。さっきまで茶色い焼き目が付いただけだったたこ焼きが美味しそうに変身して……

『良い匂い』
「せやろ?」

そうして、出来上がったのかやっと私の目の前にたこ焼きの乗ったお皿が置かれた。

「蔵ノ介オリジナルたこ焼きの完成や!食べてみ?」

さっきとは全然違う美味しそうに化けたたこ焼きをもう1度口に運ぶ。

『美味しい…!』

まさに初めて食べる味。
塗ったソースが甘い。かつお節がしょっぱい。生地がなんとも言えなくて…中に入った蛸がぷりぷり。美味しくって、もぐもぐと飲み込んでからまた1つと口に頬張る。

「どや、これなら食べたくなるやろ?」
『うん!ありがと蔵ノ介!』
「全く……手のかかるお嬢やわ」

素直にお礼を言うと言葉とは裏腹に蔵ノ介もにっこりと目を細めて笑って、くしゃくしゃと私の頭を撫でた。

『え?ちょっと!髪乱れるよ!馬鹿!』
「馬鹿はあかん、言うならアホって言わな」
『は?なにそれ』
「ま、そないな顔して食べてくれるんならまた作ってやってもええで」
『てゆうか何でそんな偉そうなのよ、全く…』

相変わらず偉そうで口のきき方も気に食わないけど、それでも蔵ノ介も悪い人じゃないのかなって思って少し見直した。
まぁ、まだ認めただなんて思ってないんだからね!ちょっと気に入ってなんかないんだからね!

初めて、蔵ノ介って呼んでもろたわ。
まぁ、食べ物で釣れる所がまだお子様やけどな


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