番外執事×ヘタレ


『蔵ノ介さんはとっても優秀なのに謙也くんは失敗ばかりね』

よく食器は割るし、スケジュールは間違えるし、どっちかと言えばあまり出来の良くない謙也くん。

「……やっぱりお嬢も白石みたいな執事が良かったんか」
『そういう訳でもないけど。蔵ノ介さんはうちの執事ではないもの。うちはうち、他は他よ』

どっちかと言えばお友達の蔵ノ介さん自慢にちょっぴり悔しくなったと言うのが本音。
学校で仲の良い彼女は、お嬢様ばかりの学校の中でとても活発的でクラスの中でもトップクラスの家柄を鼻にかけない。
彼女が自分の事や家柄を自慢する事はないのだけれど、仲が良くなると彼女の話にはいつも蔵ノ介さんと言う執事が出てくる。

そして最初は愚痴にしか感じられないのだけれど、だんだんそれは愚痴ではなくて彼女の執事自慢なのだと気付く。愚痴や悪口に愛情を感じるのだ。彼女はその執事の事が好きなのだろう。

『蔵ノ介さんはヴァイオリンも出来るし、お料理も上手らしいわね』
「知っとる。知り合いやもん。今日はアップルティーでえぇ?」

つまらなそうに謙也くんはそう言って、お茶の準備を始める。

『えぇ。…それにしても蔵ノ介さんと知り合いだなんて初耳だわ』
「俺らみたいな執事が勉強する所があって、それでな」
『そんなのがあったなんて知らなかったわ…』
「まぁ、この家に来る前に行く訳やしな。せやけど白石とはなんやかんやで連絡取り合っとるで」
『へー、そうなのね』

謙也くんがあの蔵ノ介くんと知り合いだったなんて、今の今まで知らなかった。なんだかその事実にちょっぴり苛立ちを覚えつつ、煎れたての紅茶に口を付ける。

『でもね、謙也くん』
「ん?」
『蔵ノ介さんは彼女の執事だから素敵なのよ』
「え…?」

活発で明るくって、習い事を嫌がる優しくて面白い彼女だからこそ、唯一彼女に実力行使が出来る蔵ノ介さんの技が活かされて、彼女も嫌と言いながらもそういう風に扱われる事が嬉しくて堪らないんだと思う。

『だから、私は謙也くんで良いんだわ』

だから、きっと私の執事が蔵ノ介さんでは面白くない。私と蔵ノ介さんだったらただの業務的な執事とお嬢様になっていたと思うもの。

「……どういう意味やねん、それ」
『要するに私は謙也くんが好きって事よ』
「…なっ!」

な、な、…と言葉にならない声を発している謙也くんはとっても面白い。多分これが蔵ノ介さんならこうはいかないでしょう。寧ろ彼女がこうなるパターンよね。

『……まぁ、ある意味蔵ノ介さんとは仲良くなれそうだわ』

同類として。蔵ノ介さんも私が謙也くんで遊ぶのと同じ様に、彼女をからかうのが楽しいんだろうから。

『2人で彼女の家に遊びに行くってのも面白そうね』

今度は私が彼女に謙也くんの自慢をしなきゃ。
動物みたいに可愛くて忠実で、落ち込んだ時の顔は本当甘やかしたくなる位愛らしくて、失敗ばかりだけど私の事を第一に考えてくれる。
スケジュールを間違えても物覚えが良くなくても、私の好みなんかは絶対に忘れたりしなくて、変な所ばかり気が利く。
そんな彼が私はとても気に入っているのだから。

あたしには彼女に負けない、あたしだけの執事がいる


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