おでこに冷たい感覚がした。
タオルか何か置かれたのかと思って目をうっすら開けるとすぐ目の前に蔵ノ介の顔があった。

『く、くら…』
「ん?」

吐息のかかりそうな位の距離で微笑む蔵ノ介が妙に格好良くて、これも熱の性かなぁ…なんて風邪の性にしてみたり。

『手、気持ち良いー…』
「熱結構あるなー」

おでこに置かれていたのは蔵ノ介の手で、いつも冷たいけれどよりいっそう冷たく感じて。それが気持ち良くて、緩い眠気に誘われ再び私は目を閉じようとした。

「お嬢、寝る前に粥と薬飲み」
『ん…、』

すぐ寝付こうとした私にそう言って蔵ノ介はぽんぽんと叩いてきて。そしてそれと同時位に置かれていた手を離して、ひんやりとした所謂ひえピタさんが貼られた。

「ほら、卵粥でえぇやろ」
『……誰が作ったの?』
「ちゃんと俺が作ったで」

この我が儘お嬢が、ってひえピタが貼られたおでこに優しくデコピンをされた。
この完璧執事は料理も上手くて絶品。それでも普段はシェフが作ってくれた物を食べるのだけど、お粥だけは絶対蔵ノ介の作った物しか食べない。
今となれば何が嫌だったのかどこが違ったのか忘れてしまったけれど、シェフやメイドさんが作ったお粥と蔵ノ介が作ったお粥は違って。私は蔵ノ介の作ったお粥じゃないと嫌になってしまった。

『……でも蔵ノ介のお粥は美味しいからしょうがないし、』
「なにがしょうがない、やねん。手間のかかるお嬢で俺は大変なんやで」

そうは言っても何も言わずとも自分が作ってくれる所とか、卵粥が1番好きって事とかを把握してくれてる蔵ノ介は最高。
口はお小言ばっかり喋りながらも、美味しそうに湯気がたったお粥の小さな土鍋から器に移してから私の方に向き直った。

「まぁ、何も食べへんよりかはましやけどな」

そう言ってから蔵ノ介は笑ってほら、とお粥を掬ったれんげを差し出した。
美味しそうな匂いが嗅覚を刺激する……けど、

『自分で食べれるんだけど』
「今さら何言うてんねん、はよ食べ」
『……』

本当、どこまで蔵ノ介は面倒見が良いのだろうか。特にこういう風に弱った時の蔵ノ介はかなり甘甘になる。
仕方なく、蔵ノ介に食べさせて貰う形でお粥を食べる。その味はやっぱり美味しくて、どんなに食欲がなくても食べれてしまうこのお粥は凄いと思う。

『ん…、』
「なにやってんねん、しっかり食べや」
『ごめん……』

口に入り切らなくて食べ損なったお米が少し口元に垂れた。
それを自分の手で拭おうと、ゆっくり重たい腕を上げようとすると、それより先に蔵ノ介の指が私の口元に触れた。

「ほんま子供みたいやな」

そう言って蔵ノ介はそっと、親指でそれを拭う。その仕種と表情はどこか色っぽくて、熱とは別に顔が火照る気がする。

「ほら、ぼーっとしとらんと、ちゃっちゃと食って薬飲んで寝る」
『……はーい』

そんなにせかさなくたって飲みますよー、って思ったけど面倒臭かったから声には出さずに大人しく薬と水を受け取って飲む。熱があるからか気力があんまり出なかったって言うのもあるけれど。

薬を飲むと胃に何か入れたのもあってか、さほど時間も掛からずに眠気が襲ってきたから、逆らわずに目を閉じた。

『……蔵ノ介』
「なんや?」
『ありがと、』
「いつもの事やん」
『ん、そうだね』
「俺はお嬢専属の執事やからな」
『ん…』
「はよ、元気になりや」
『……』


…おやすみ、
はよ元気になってや、俺のお嬢

気付かれない様にそっと頬にキスを落とした、


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