あぁ、君が僕のお嬢なんやな。
「白石、何見とるん?」
「……」
「白石?」
「ん、あぁ。謙也か」
「さっきから真剣に何見とるん?」
「勝手に覗くなや」
さっきからぼーっとベッドで眺めていた1枚の写真を謙也が興味深そうに覗きこむ。
咄嗟にすぐ見えないように裏に向けて、なんでもないように笑うつもりやったけど不自然やったやろか…、と疑いの眼差しを向ける謙也の顔を見て思った。
「なんやねん、気になるやんか!」
「……これは俺のお嬢の写真や」
「ほんまに?写真もらえたん?」
「まぁ、な」
「やっぱはようから就職決まっとるとそういうんも早いんやなぁ。俺まだお嬢様の顔見たことあらへんもん」
「そうなんか?じゃあ旦那様や奥様達と食事行くとかって話もないん?」
「……白石はあるんか」
「まぁ、な」
すると単純な謙也は分かりやすくいじけた顔して、自慢はもうえぇわ!と風呂道具を持ってすたすたと部屋を出ていった。
ぶっちゃけた話、他人がどうとか全く興味はあらへんのやけど、写真もろたりとか食事する話が他はないって聞くと自分はお嬢の特別な気がして気分は悪くなかったりする。
せやけど、なんやってこんな会うたこともないこの少女のことに対して優越感に浸れるんやろか。
この、にこにこと穢れを知らないみたいに笑う子を護るんは俺やと思うと今まで感じたことのないような、なんやろうか、わくわくするっちゅーんかな、この気持ちは。
このたった1枚の写真を担任からもろてからなんとも言えない、せやけど悪くないこの気持ちを持て余しとる。
こないに緊張するやなんていつ振りやろか。いや、初めてかもしれへん。
俺はいつの間に人見知りになったんやったっけ……。
違う。
人に気に入られたいとか、気に入ってもらえんかったらどうしようとか、そんなん今まで考えた事なんてなかったからや。
約束の時間。
貸し切りという看板の掛かった高級中華の店の扉を開く。
「いらっしゃいませ白石様」
「あ、ありがとうございます」
扉を開けきる前に扉を開けられて、品の良さそうな店員が迎えてくれる。
案内されて店の中を進むと一番奥のテーブルに男女が座っていた。
「旦那様奥様、白石様がお見えです」
そう声を掛けられて談笑していた2人がゆっくりと振り向いた。
「はじめまして、旦那様奥様、白石蔵ノ介です」
「あらあら、そんな硬くならなくて良いのよ。これから貴方はあたしたち家族なんだから」
そうだよ、と旦那様も笑って席を進めてくれる。
「はい、ありがとうございます。」
「なまえ?ほら蔵ノ介くん来たわよ」
『ん……』
「あらあら、駄目ねぇ…」
奥様の膝の上に頭を乗せて横になっている少女。小さくて気づかへんかったけど、彼女は寝てしまってるみたいや。
「この子ったらはしゃぎすぎて疲れちゃったのね」
「そうだな、家族皆で食事に行くことなんてあまりないからな」
「わたしたちは忙しくてあまりこの子といる時間は多くないけど、寂しくないようにこの子の傍にいてあげてね」
「はい。僕に出来ることは何でも」
「はは、君を選んで良かったよ。君の父さんにお願いした甲斐があった」
「父にいきなり寮に送られた時はびっくりしましたけどね」
「白石さんたら説明もなしに学校入れちゃったの?」
あらあら、と楽しそうに笑う奥様とあいつらしいなと呆れる旦那様。
あぁ…なんやろか、気が抜けるとゆうか安心した。
『ん…、ママぁ』
「あら?寝言かしら…?」
『お腹いっぱ…い』
「はは、食いしん坊だななまえは」
この子が俺のお嬢。
この子が寂しくないように、この子が傷付かないように。それが俺の役目。
あぁ…起きた君に会うのが楽しみやわ。
すやすや眠る食いしん坊な僕の姫さん。
これが俺のお嬢との出会い