最近カラっと晴れる日がないから洗濯物乾かす暇がないなあ、と思いながら私は放課後の学校を歩いていた。といってもトイレ行ってから帰ろうと思ったからなんだけど。今日は課題もないし、テレビの中行ってタルタロスでも登るかな…。花村には昨日奢ってもらって満足したり今日はべつに絡まなくたっていいか。そう思って教室に入れば、鳴上と何かを話しているらしい花村を見つけて思わず「おお」と声を漏らしていた。そういえば今朝また花村が死んでたからどうしたのかたずねたら鳴上が苦笑をしていたのを思い出してまた自転車でどっか突っ込んでどうにかなったのを鳴上が助けたのかもしれないと思ったことをふっと考えた。
「どうよ、この町もう慣れた?」
花村の言葉に鳴上は小さく苦笑をすると、まだ慣れない、と言って花村を見上げた。椅子に座っている鳴上のほうが花村を見上げる形になるのは当然だろうけど鳴上、背高いからなんか違和感。
「まあ、来たばっかだしな。ここって、都会に比べりゃ何もないけどさ、逆に”何もない”があるっ…ての?空気とか結構ウマいし、あと食いもんとか…あ、ここの名物、知ってるか?ビフテキだぜ」
鳴上の机に手をついて花村は笑うと、そのままの格好で首をかしげて笑った。そういや鳴上、今日もあんまりクラスの子たちから話しかけられてなかったっけか。まあ初日にモロキンにあんなこと言えばそうもなると思うけど。
「すごいっしょ、野暮ったい響き。俺安いとこ知ってんだけど、行っとく?おごるぜ、今朝助けてもらったお礼に」
「それ私も行きたい!ていうかまたあんた自転車でなんかやらかしたの?鳴上ごめんね、花村バカで」
「いや…」
「げ、桐条」
「げってなんだげって、昨日から花村私に失礼!」
「いや俺桐条さんはこの地上でただ一人の女神だと思ってますホント」
冷や汗をかいている花村に私は半眼になりながらも「よろしい」と言って鳴上の横に腰掛ける。千枝の席だしまあいいかと思って「私は自腹するから」というと花村の顔は一気に落ち着いて、それから私の後ろにやってきたらしい誰かを見るとがらりと顔色を代えてしまった。
「あたしには、お詫びとかそーゆーの、ないわけ?成龍伝説」
私の肩に抱きついてきた千枝に花村は嫌そうな顔をしたけれど、割ったというDVDを持ち出されてしまえばどうにもならないのか何も言い返さずに大きなため息をついただけだった。それに千枝はやった、と小さく言うと帰る準備をしていた雪子を誘う。けど雪子は少しだけ迷ったように視線をめぐらせると忙しくて家の手伝いをしなくてはいけないからと苦笑をした。そういや雪子の家って旅館だっけか。ていうか家の手伝いってことは、雪子もしかしてもう女将修行とかしてるってこと?
「天城って、もう女将修行とかやってんの?」
私と同じことを考えていたらしい花村が私が雪子に何か言う前にそうたずねると、雪子は苦笑をして首を横に振る。
「そんな、修行なんて。忙しいとき、ちょっと手伝ってるだけ」
雪子はそういうと、荷物をまとめたかばんを持って立ち上がると私たちに向き直って申し訳なさそうにうつむいた。
「それじゃ、私行くね」
「気をつけてね雪子、また明日」
「ありがとうちとせちゃん、また明日」
早足に教室を出て行く雪子を見送ってから、千枝が机の横にかけてある自分のかばんをつかんで「仕方ないか」と小さくこぼす。
「じゃ、あたしたちも行こ」
「え、まじ二人分おごる流れ…?」
にっこりと笑う千枝に、花村がげんなりした表情を返したのは言うまでもないだろう。まあDVD割ったんだからそれくらいはしてもらわないと千枝も微妙に腑に落ちないだろうしねえ。
「じゃあ私も奢ってもらうかな」
「俺に死ねって言ってんのか桐条」
「ああうん冗談だってそんな絶望した顔しなくても」
「なんで?ちとせもオゴってもらえばいいのに」
「いやいや、私昨日奢ってもらったからさすがに今日は悪いしいいや、今度で」
「さすが桐条おまえ女神…って、今度?俺の聞き間違い?」
「じゃ行こうか千枝。鳴上も準備できた?」
「ああ」
「よっし、肉ー!」
教室から出て行く私たちの後ろで「俺はフル無視か!」と叫んだ花村の声は私たちの耳には届いていなかった。
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