花村をけなしつつも花村に連れられてやってきたのはなぜかジュネスのフードコートだった。あれっビフテキとか言ってたからステーキハウス行く流れかと思ってたけどまさかのファーストフードとか。まあ私も仕送りだけで生活してるから安いに越したことはないんだけど…いや、まあ私の場合姉さんから送られてくる仕送りの額が半端ないからそんなに困るっていうことはないんだけど。

「安い店ってここかよ…ここビフテキなんか無いじゃんよ」
「お前にもおごんなら、あっちのステーキハウスは無理だっつの」

 トレイをテーブルに置きながら花村は不満そうに唇を尖らせる千枝にあきれたように言った。鳴上は「俺はべつにいいけど」と小さく笑っただけだ。
 …うーん…湊とは似てないけど…なんか引っかかるんだよなあ。力の気配、未発達なそれ。湊と、おなじ。

「だからって、自分ちつれてくることないでしょーが」
「別に、俺んちって訳じゃねーって」

 花村がひらひらと手を振って言えば、鳴上が不思議そうに首をかしげて花村を見る。それに私は考えを中断して、隣に座る鳴上の方をちょんちょん叩いて耳元に手をかざして口をよせた。

「ジュネスって花村のお父さんが店長なのね」
「へえ…」
「あ、そか、お前にはまだ言ってなかったよな。俺も都会から引っ越して来たんだよ、半年くらい前。親父だけじゃアレだし、家族で来たってわけ」

 花村はどこか照れたようにそういうと、後ろ頭を小さくかいて目の前にあるジュースを手にとって笑いながら「んじゃこれ、歓迎のしるしってことで」と少しだけジュースをあげた。それに習って私と千枝、それに鳴上も目の前のジュースをとれば、花村が千枝を見ておまえのもおごりだぞ、と未練がましく言った。いや、ていうか悪いのは全面的に花村だろうからそんな未練がましくいわなくても。千枝は千枝で「知ってる」としれっと言っただけだった。

「んじゃかんぱーい!」
「かんぱーい!早くあたしのDVD返してよね」
「うっ、わ、わかってるっての」

 とりあえず空気をかえるように私がジュースをかかげて言えば、続いて千枝も私と同じようにジュースをかかげて私のカップに当てた。それにならって鳴上と花村も乾杯、と言ってカップ同士を当ててからジュースに口をつける。
 そのあとしばらく他愛のない話、たとえば最近あった面白い話だとか鳴上のことをたずねてみたりだとかを話していたら、少し遠くに座っている見たことのある姿を見つけて私は思わず「あ」と声をもらしていた。
 ゆるくウェーブのかかった髪におだやかな表情。やさしい印象を受ける、うちの学校のひとつ上の先輩だ。お酒は買える年じゃないけど家が商店街のほうに近いからっていうのもあって調理酒はあそこの酒店のやつ使ってたし、よく知ってる人だ。小西早紀さん。
 私の視線の先に気付いたのか、花村たちもそっちを向いたと同時に花村が「あ」と少しだけうれしそうな声を漏らす。

「小西先輩じゃん。わり、ちょっと」

 言うと、花村は椅子から立ち上がって小西先輩のほうへ行ってしまった。おーおー、お好きな先輩に会いにいくなんて忠犬っぽいなあ。そんなことを考えながら花村の背中を見ていれば、鳴上が少しだけ首をかしげて口をひらいた。

「陽介の二人目の彼女?」
「はは、そうならいいん…えっ、二人目!?」
「あれ?桐条と付き合ってるんじゃ…」
「ぶっ!げほっ、ごほっ!」
「ちょっ、鳴上くんあんまりひどい冗談言ってるとちとせ死ぬから!大丈夫?ちとせ」

 笑いながら手をぱたぱたとした千枝が鳴上の言葉の意味の理解した瞬間、私は飲んでいたジュースを思わず誤嚥して咳き込んだ。千枝が背中をたたいてくれてやっと咳き込むのが止まってから鳴上を見上げて涙目になりつつも見上げたら心底不思議そうな顔をした鳴上と目があう。え、なんでそんな不思議そうな顔してんの…!?

「な、なんでそう思っ…」
「いや…仲良いからてっきり付き合ってるのかと思ってた」
「違う違う!ちとせにも選ぶ権利あげなよ。あの人は小西早紀先輩。家は商店街の酒屋さん。…けど、ここでバイトしてんだっけ」

 若干花村に対してひどいことを言った千枝だったけれど、鳴上は完璧にそれをスルーして「ふうん」と言うと花村と小西先輩のほうへと視線をやった。それに私も千枝も視線をそっちにやれば、こっちに気付いた小西先輩と花村が近づいてくるところで。

「キミが転校生?はじめまして」

 小西先輩は人懐こい笑顔で笑うと、鳴上の横に立って小さく頭を下げる。そのあとに花村がついてきて、小西先輩がいるところとは逆側の鳴上の横へとたった。私に気付くと「ちとせちゃんもこんにちは」と言ってくれたので「こんにちは」と笑顔で挨拶をすれば、視線はまた鳴上へとそそがれてしまったけど。

「あ、私の事は聞いてる?都会っ子同士はやっぱり気が合う?花ちゃんが男友達つれてるなんて、珍しいよね」
「べ、別にそんなことないよー」

 くすくす笑いながら言う小西先輩に、花村はどこか照れたように、だけどすねたように言った。あーあー、態度に出しまくりじゃないか花村め。でももやっとなんか胸に…あ、あれだな友達をとられる感覚っていうやつ?あーそんな感じかも、似てる。湊が寮に溶け込んでいくのうれしかったけど私とあんまり話せなくなってさみしかったときの感覚に似てるし。先輩と付き合いだしても遊んでくれるかなこっちの友達私も実は少ないんだよなあ。いや顔見知りはいっぱいいるけど遊ぶとなるとそんなにいないっていうか。

「こいつ友達少ないからさ、仲良くしてやってね。でも、花ちゃんお節介でイイやつだけど、ウザかったらウザいっていいなね?」

 ぽん、と鳴上の肩をたたく小西先輩に、鳴上が少しだけ笑って「いいやつだ」といえば、先輩は「わかってるって、冗談だよー」と楽しそうに笑う。それに花村が変な話しないでよ、と困ったように言えば小西先輩はイタズラっぽく笑ってちらりと時計に目をやると小さなため息をついた。

「さーて、こっちはもう休憩終わり。やれやれっと。…あ、ちとせちゃん、頼まれてた調理酒入ったからまた来てね。それじゃね」
「あ、ほんとに!?わーい、また明日にでも買いにいきまーす!」
「うん、じゃあまた明日」

 そう言って先輩は私に手をふると、フードコートから出て行ってしまった。花村が「あ、先輩…」と寂しそうに言ったけど…ざまあみろ花村め!先輩とは私のほうが仲良しなんだぞ羨ましいだろう。

「はは、人のこと”ウザいだろ?”とかって、小西先輩のほうがお節介じゃんな?あの人、弟いるもんだから、俺のこともそんな扱いっていうか」

 照れながら言う花村のコメカミにこぶしをあてて、ストローをくわえたままこぶしをぐりぐりして私はあからさまなため息をついた。

「ノロケはやめてくださーい、有料で話してくださーい一回千円で」
「ノ、ノロケじゃねえって!てかおまえ実は悪魔だろ」
「ん?」
「いえ…ナンデモアリマセン」
「弟扱い、不満ってこと?…ふーん、分かった、やっぱそーいうことネ。地元の老舗酒屋の娘と、デパート店長の息子。…燃え上がる、禁断の恋、的な」

 私と花村のやりとりをいつものことだと言わんばかりに見ていた千枝がポテトを持ったままゆらゆらと手を揺らしてそういえば、花村は真っ赤になってその場に立ち上がる。がたん、と机が揺れたけど花村は気付いてないみたいだ。

「バッ…!アホか、そんなんじゃねーよ」
「顔真っ赤にして、まあ。ちゃんと彼女紹介してよ?」
「だからなあ!」

 からかうのが楽しくてにやにやしながら花村をからかっていたけど、ポケットにいれてた携帯がにぎやかな音楽を鳴らし始めたので「ごめん」と言って画面を見ればそこには「桐条家」という文字が。えっ、家?姉さんの携帯じゃなくて家ってなにごと。今までかかってきたことのなかったそれに驚いて私は勢いでその場に立っていた。

「あれ、どしたの?」
「あー、ごめんちょっとややこしい電話かも。今日はちょっと帰るねごめん」
「だいじょぶかー?」

 花村のそれに「平気平気」とかえしてあわててトレイの上のものをゴミ箱に突っ込んでトレイはゴミ箱の上におく。まだ鳴っている携帯を見ながら三人に「ばいばいごめんねまた明日!」とあわただしく言って、私はその場をあとにした。離れる直前、千枝の声が聞こえて「マヨナカテレビって知ってる?一人で雨の日の0時に消えたテレビを見てると運命の人がうつるんだって」という内容のどこにでもありそうな都市伝説の話が聞こえてきたけれど、特に気にするでもなく私はとりあえずフードコートから出て静かに話のできる場所へ移動して電話に出た。

「も、もしもし、ちとせです」

 緊張して電話に出れば、それは携帯電話を水没させたためにメールと電話ができなくなったと話すアイギスからで脱力してしまった。ア、アイギスか…!家からかかってきたからなんだろうって身構えたじゃないか…!緊張していたのが分かったのか謝られたけど、とりあえず最近のことを聞いたり聞かれたりして電話は終わった。ときどきなんかみんな心配してこういう電話かけてきてくれるんだよなあ…過保護っていうか、いや、まあかなり嬉しいんだけど。

「一人じゃないって、わかってるよ」

 湊のこと、まだ完全に脱せれていないのが分かっているから、きっと心配してくれているんだろう。けど、ここに来る前ほどひどくはない。自分でも、前に進めている気はしてる、けど。考えてしまうっていうことは、まだ、引きずってるってことなのか、なあ。まあ多分今は鳴上の存在も結構大きいけど。そう考えてため息をつきながらふと道路に目をやれば、自分の影がすっと目の前にのびていて、真っ黒のそれがなぜかにやりと笑ったような気がした。

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