頭が痛い。ていうか体がだるい。
昨日もテレビの中に入ったものの、いつもは私が行くと必ずタルタロスのエントランスにいるはずのクマがいなかった。たまにいないこともあったけど、別の場所にいたのか私が入ってくるのがわかるとすぐに追いついてきてたのに昨日は姿を見ることもなく終わったのだ。さすがに一人で、しかもアナライズ無しに行動するのは複雑だったからそんなにタルタロスも登らずに終わった。まあある程度のシャドウなら散々戦ったから弱点も覚えているし逃げる時はさっさと逃げるから別に一人でも良かったんだけど、来ないクマが気になった。
エントランスと校門付近は確か安全だったはずだから、校門までとりあえず行くけどあるのは霧とよくわからない空間だけ。クマにはここの外は危ないから出ない方がいいと言われていたけど…でも、気になる。行ったことのない場所は怖いものがあるけど、それでもクマがいつも歩いていた道だと思うと妙な安心感さえ生まれる。あのクマだし。思って一歩、校門から足を踏み出せば妙な感覚に襲われた。空気が違う。タルタロスの気配ではなく、もっと別の空気になった。しかも…私だけじゃない、もっとほかの何か…?が、居る…?クマの気配はする。空気の中に少しだけどクマの気配は分かる。けど、そのほかに、もっと、違う…。人の、気配…?
けどそんなことあるはずがない。この半年間でわかったけど、ペルソナの能力がないと、テレビの中には入れないんじゃ…。
そこまで思ってふっと鳴上の顔が浮かんだ。…けど、この気配は鳴上の気配じゃない。ペルソナの気配だって、しない。しばらく校門から進んだところで、ふっとまた空気が変わった。気持ち悪い。なんだこれ…?人の中に、土足で入っていく感覚。頭が痛くなる。
クマがいない時は外に出ないほうがいい。全くもってその通りだと思った。そこで私は探索を中断して、タルタロスへと戻って自分の家に戻って、やることだけして寝たのだ。
学校来ても朝から雨だし、憂鬱だし変な噂でもちきりだしで。ニュースを見たらしいゆかりちゃんとか順平くんたちからメールとか電話とかいろいろ来たりしたけど、今日あったことなんてその程度だ。マヨナカテレビっていうよくわからんテレビが噂になってるのと、小西先輩が遺体の第一発見者っていう噂が交互に流れてくる。その小西先輩は今日は学校に来てないみたいだけど。小西先輩の弟くんは見たんだけどなあ…。
昨日感じたテレビの中に違和感で鳴上のことずっと見てたけど普段と変わんないし。変わるって言ったら花村が元気ないことくらいか…まあ花村なんて所詮そんなもんだし気にしないけど。
小西先輩のことはともかくも、気になったといえばまあテレビの噂かなあ。雨の日の0時にテレビを見てると運命の相手がうつる。そういえば千枝もそんなこと言ってたっけ?あれ、千枝だっけ、まあいいか。
ありがちな都市伝説っぽいけど、引っ掛かるのは0時っていう時間。…気にしすぎなだけかもしれないけど、何年か前まで体験してた影時間がくる時間と同じ時間だ。あー、素直に姉さんに相談してたら…いやいやでも相談してたら絶対姉さん忙しいのに仕事放ってこっち来ちゃうし、そうじゃなかったらアイギスとかコロマルとか絶対こっちに送り込むしなあああ…!幸運なことに今日も雨だし、噂のマヨナカテレビとやらを見てみるのもいいかもしれない…てことは今日はテレビの中は無理、か。今日こそクマ見つけて、引っ張ってテレビの中案内してもらおうと思ったんだけど。
昨日の気配は、あれは絶対人の気配だった。あの中は、あの場所にいる人にとっての現実となる。クマが言ってた言葉だ。私があのテレビの中に入ったことによってできたタルタロスと同じように、もしかしたら別の人が入ってできた空間があったのかもしれない。だから人の中に入っていく感覚が「桐条?」んん…?
「授業終わったけど。具合でも悪いのか?」
「え、あー…うそ授業終わった?」
声をかけられて、ぱっと体を起こす。どうやら私は机に突っ伏してたらしい。斜め前の席に座っている鳴上が私を見て不思議そうにしてるけど…えーっと、授業終わったってどういうこと。
「え、五時間目の?」
「いや、全部。ホームルームも終わった」
「うっそ」
まわりを見てみれば確かに人はまばらだった。花村もいないし、千枝もいない。雪子が帰る準備してるくらいであとみんないない…え、最後に記憶にあるのお昼休みなんだけどそれからずっと考え込んでたってことか…えっていうか授業聞いてないまずいやばい。
「な、鳴上、授業のノートとった?!」
「え、ああ、まあ」
「か、貸してください今日一日!」
花村に借りても落書きだらけだし、千枝も千枝で落書きとか肉とかばっかりだし、雪子に借りるのが一番なんだろうけど雪子遠いし!お願いします、と両手を合わせていえば、鳴上はちょっとだけおかしそうに笑って「はい」と二教科分のノートを私に渡してくれた。うわ何この人神か、こんな普通に渡してくれるとは…。花村のようにおごりとか言ってこないし最高です鳴上様。
「ありがとうございます鳴上様…!これで命拾いしました…!」
「いや、そこまで言われたらなんかちょっと複雑だけど」
苦笑しながらも鳴上は言うと「体調は?」とたずねてきた。いや頭痛いし体調そこまでよくないけどそんなでもない。昨日の思わぬテレビの中のあの出来事がちょっときいただけです、なんて言えるわけもなく。
「ノート借りたから大丈夫!ありがとう鳴上…私今日帰って猛勉強する…!」
別に、桐条の家から出て一人暮らしをするための条件なんてなかったけど、成績だけは下げたくない。桐条っていう苗字を私にくれた姉さんのためにも、自分のためにも。勉強してて悪いことなんてないし、うんよし今日帰ったら風呂入ってご飯食べて勉強する!そのまま0時まで勉強コースでテレビ見れば問題ないだろ、うん!
思って速攻で鞄の中に荷物をつめる。早く帰って勉強するっていうか家のこともする。鞄を持って立ち上がったところで、そういえば、と声に出して鳴上に携帯を突きつけた。
「アドレス教えてもらってもいい?わかんないとこあったら教えてください」
「別にいいけど…天城とか花村も居るのに?」
「雪子忙しい時メール見れないし…花村は多分テスト前にしか勉強しない」
テスト前に焦って私や雪子に勉強教えてくれと頼んできていた様子を思い出して半眼になる。あれテスト前になると毎回言われるからな…そろそろ分かってきたし。私の言いたいことがわかったらしい鳴上は「なるほど」と納得したように言って、携帯を取り出してアドレスを送信してくれた。それに私も送り返して登録完了。よし!
「ありがとう!じゃあ私帰るまた明日!」
さっと手をあげて教室を飛び出す。すれ違った花村にも「またねー」と言えば、花村は元気なさげに「おう」と言っただけだったけど。…なんだろ、元気ない花村ってなんか気持ち悪い…。
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