夜中に寝たにもかかわらず、いつもの時間に目を覚ました私はそれでも朝ごはんは食べる気にならず、ぼんやりしながら制服を着て家を出た。小西先輩、探さないと。学校にも行く気にならないけど、それでも行かないといけない…桐条にもらわれた私のせめてものお返しだし…。だけど、小西先輩が、テレビの中に居るのに、どうしたら。
…そっか、朝の出席だけ出て、それから保健室に行ったことにして、テレビの中に入ろう。学校終わるまでに戻ってくればいいんだし、小西先輩を早く探さないと。
「ねえ、聞いた?三年の小西先輩のこと…」
学校へと行く道すがら、同じ学校の子が話す声が聞こえてくる。それに小西先輩という単語があって、思わず歩きながらその子たちの会話に耳をすませていた。ひそひそとひそめて話す声だったけど、案外近くにいるおかげで小さいながらも私には聞こえる範囲だ。
「聞いた…今朝、死んでたんでしょ?」
「え、うそ?小西先輩が!?」
「うん…どっかの家のアンテナにつるされてたの、見つけたって…」
その子たちの会話は、そこで私に耳には入ってこなくなった。小西先輩が、死んだ?ざあっと、足元に血が落ちていく感覚がした。眩暈のあとのように視界が真っ白になって、くらりと頭が揺れる。うそ?ほんと?どういうこと…?
心臓が、あり得ないくらい早く脈をうつ。体が震えた。ふと、頭を過ぎて行ったのは湊や、シンジ先輩、綾時くんだった。また、わたし守れずに。あの時、私だってあの場所に、居たのにタルタロスの外に出ること、やめたから…?
そこまで考えたとき、体が勝手に踵を返して家へ帰る道を走ろうとしていた。けど、それもすぐに終わってしまう。私が踵を返した瞬間、私のすぐ真後ろにいたらしい人にぶつかってしまって、私はその反動で倒れそうになる。ああ、夜中もこんなことあった。そのまましりもちをつくのを覚悟していれば、それは腕を引っ張られるということで事なきを得て。誰だろう、そう思って私にぶつかった人を見上げれば、ビニール傘をさした鳴上だった。
「あ、鳴上…?あー、ごめんねぶつかって」
「いや…学校は?行くんじゃ」
「え?ああ」
まさか鳴上にテレビの中に行くからサボるなんて、言えるわけがない。それに曖昧に笑って「行くよー忘れ物あったんだけどまあいいや」と言って、鳴上の横に並んだ。ら、まだ持たれている手首に、きゅっと力が入る。
「?なに?」
「いや…もしかして桐条」
「お、ちとせに鳴上くん!オハヨー」
何か言いかけた鳴上の後ろから、千枝がひょっこりと顔をのぞかせた。それに「おはよー」と返せば、鳴上の手が私の手首から離れていく。その手をなんとなく目で追いかければ、千枝がひょいと私の顔を覗き込んで「あれ、なんか調子悪い?」と首をかしげた。
それにはっとして、笑顔を顔に張り付ける。揺れるな私。笑え。泣くな。震えるな。
「いや、今転びそうになってびっくりしただけ」
「え、大丈夫?花村みたいなことしないでよねー」
「いやそこと一緒にされてもねえ」
どろりとした感情があふれそうになって、だけどそれにぐっと蓋をして心の奥底へと沈ませる。気づかれないように深呼吸をして、心の中で落着けと、ただそれだけを唱えた。
笑いながら、千枝と鳴上と一緒に学校への道を歩いていく。鳴上が私を見ながら首をかしげていたことなんて私は気づかずに。
その日、午後の緊急集会で小西先輩が亡くなったと校長が静かに言った。
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