ちとせが泣くところを、貴臣は見たことがなかった。
 それなりに長い付き合いであり、悲しかったことも痛かったこともあったのを知っているし横で見てきていたのだが、それでも泣くところというのは一度も見た事がなかったのだ。
 養女とはいえ、桐条という大きな家の娘らしく弱みを見せないところが好ましく、そして少し寂しく思っていた。
 婚約者である自分にくらいは見せてもいいのではないか、と思ったのは随分前だったはずだ。
 そんなちとせが、ぼろぼろと涙をこぼしている。貴臣に縋り付くようにして、何もなくて良かった、と。

「ちとせ、ただの捻挫だ」
「それでも私のこと庇わなくたって良かったよ!」

 打ちどころが悪かったらどうするの、とちとせはまた泣いている。
 貴臣の部屋で、貴臣はベッドの上に座っている。ちとせはベッドの横に小さな丸椅子を持ってきて腰掛け、貴臣の胸に頭を押し付けていた。
 ベッドに座っている貴臣の左足首には、大袈裟にも見える包帯が巻かれている。
 なんてことはないただの捻挫なのだが、捻挫をした状況がちとせを今泣かせている原因らしかった。
 ただ、慌てたように階段を登っているちとせに後ろから声をかけたら、ちとせが驚いて落ちかけたのを助け、一緒に落ちただけなのだ。
 ちとせであれば受け身も取れただろう、と今になって思うが、万が一ということもある。さすがに婚約者が怪我をするかもしれない状況で動かないという選択肢はなかった。
 貴臣としてはちとせに怪我がなかったのだからそれでよく、そこまでひどくない捻挫程度のため生活するにあたって支障があるわけでもない。が、ちとせは自分のせいで貴臣に怪我をさせてしまったことにひどく動揺していた。
 そして泣きっぱなしのちとせに、貴臣も動揺、というよりも、困り果てている。
 普段泣かない婚約者が、たかだか捻挫で泣き止まないというのははじめての経験だった。
 目の前で涙を流す女性を見たことがないわけではないが、貴臣にとってそれは大抵どうでもいい事柄である。
 適当にあしらい、時には見なかったことにしていたのだが、相手がちとせともなればそういうわけにもいかなかった。

「ちとせ、大丈夫だ」
「わ、わかってるけど」
「……ちとせ」

 押し付けられている頭をさらに押し付けるように抱き込めば、ちとせはそこでやっと自分が貴臣にくっついていることに気づいたらしく、肩に力を入れた。
 貴臣から表情は見えないが、きっと顔を赤くしているのだろうと思えば気分も良くなる。
 涙はそこで止まったらしく、ぐすぐすと鼻をすする音は聞こえるものの涙を拭う仕草はしなくなったことに少しだけ安心した。

「泣き止んだか?」
「う……」

 泣き止んだらしいちとせは、今は貴臣に抱き寄せられていることに気を取られているのか返事は喉の奥からの短い唸り声だけだ。
 けれど離れようとするわけでもなく、いやがる訳でもないその行動に、またも貴臣の気分はよくなった。
 泣いていた理由も、要は貴臣の怪我が心配だったからだ。そんなもの好きでもない相手にはしないはずだろう。
 ──ちとせが過去に亡くした仲間も、今回大したことの無い怪我で泣いている要因ではあるのだろうが、貴臣は詳しく聞いたことがない。
 気になり調べはしたものの、持っている情報といえば少し調べたら出てくるような上辺のものだけである。桐条の、さらに美鶴やちとせが所属している特殊部隊に関しての情報は貴臣の力をもってしても手に入れるのは難しい。
 といっても、ちとせに尋ねれば教えてくれるであろうこともわかっているので、そこまで自ら知りたいと思っていないのも事実だ。
 そしてちとせから明確な言葉はないものの、態度でこれでもかと貴臣と同じ気持ちを返すちとせに、さらに気分はよくなる一方だった。
 体勢が抱き寄せにくいと思い、ひょいと丸椅子からベッドへとちとせを抱き上げて座らせ、そのまま腰を引き寄せると、さすがに驚いたらしいちとせが「ひゃい!?」と裏返った声を上げた。
 が、離れる様子はやはりないため、貴臣は腰を抱いていないほうの手でちとせの首の後ろを指の腹で撫でてやった。
 入浴後、部屋に戻ろうとしたちとせを呼び止めたため、少し水気のある髪が、それでもさらさらと手の甲に当たる感触は貴臣を楽しませた。普段は絶対に触れない髪だ。
 着ているものも貴臣がちとせのために用意していたワンピース型のナイトウェア一枚のため、普段よりも感じる温もりや肌の柔らかさなどは顕著である。
 警戒心がまるでないと思うが、貴臣にだけだろうこともわかるためそれもまた喜びに変わってしまった。

「たっ、貴臣くん! あのですね!?」
「うん?」
「さ、さすがにくすぐったいっていうか、こう、なん、貴臣くんの色気がとんでもないというか、た、耐えられそうに」

 ちとせの耳が真っ赤に染まっているのを見ながら、貴臣は目を細めた。いや、とはやはり言わないちとせに言いようのない気持ちが湧き上がるばかりだ。

「くすぐったい?」

 尋ねながら、首の後ろにあった手をちとせの頬へ滑らせ、顔の横にあった髪を耳へとかけてやる。
 見えるようになった肌は想像していた通りに真っ赤で、貴臣はそのままちとせのこめかみに唇を寄せた。
 びく、と肩を揺らしたちとせには構わず、耳の先端、耳の後ろ、頬、口角の横へと唇を寄せていけば、だんだんと唇に近づくごとにちとせが狼狽えていくのがわかった。
 ちとせに好かれていると分かってから、貴臣は我慢をやめた。本気で口説いていることにも気づかれていなかったのもあるが、折角向いた気持ちが離れて行くかもしれないと思うと、心底嫌だと思った。
 今も嫌がったらやめよう、怯えたらやめよう、と思って触れているが、ちとせは狼狽えことするものの、嫌がることも怯えることもない。

「たた、たかおみく」
「ちとせ」

 少し焦らしてから唇へ軽くキスをすれば、ちとせはギュッと目を閉じる。照れているために体は硬いが、受け入れるためのそれに一度で終わらせようと思ったキスを何度か送る。
 触れ合うだけの戯れのような口付けでも満足感と幸福感が得られるのが、まるで子供のじゃれあいのようだと貴臣は思う。
 しかしこのまま受け入れられっぱなしではやめ時が分からなくなる。そう思った貴臣は、抵抗してほしさがゆえにキスをしながらゆっくりとちとせをベッドへと押し倒し、ちとせの顔の横へ肘をついた。

「待っ……」

 ゆるやかに押し倒されたちとせは、少し焦ったように視線をきょろきょろとさせる。真っ赤な頬に、何度も触れたキスのせいか呼吸をしなかったのか、息も絶え絶えの様子だった。
 まだ逃がしてやれる程度の理性を持ち合わせているうちに逃げてくれた方がいい、と思って貴臣はちとせの次の言葉を待つことにした。
 が、滅多にあるシチュエーションではないため、何もせずにはいられず「ん?」と微笑みを浮かべてちとせの頬を両手で包む。そのまま親指でちとせの唇をなぞるように動かせば、ぼうっとしていたちとせがはっと我に返る。

「貴臣くん足は!?」
「……ん?」
「動いて大丈夫!?この体勢……を、ど、どうにかするとかは、で、できないかもだけどっ、い、痛みは?足首変な方向にしてない?」
「…………」

 さすがにちとせの斜め上な反応に、貴臣は思わず黙り込んでしまった。押し倒された状況で何を言うかと思えば、拒絶でもなんでもなくただの心配だ。
 ただの捻挫のため、足首を動かせば確かに多少は痛むのだが、そこまで心配されるようなものではない。

「この状況で……」
「うん?」

 誤魔化すためでもなく、きっと心底から貴臣の足首事情を心配しているのは分かる。
 分かるのだが、思いの通じている婚約者同士、そしてベッドで押し倒されている状況で言うような内容ではない。
 もしかすると警戒心を持つ持たないの前に、そういったことの知識がないのでは?と貴臣は不安になってくる。普通の高校に通っていたとはいえ、ちとせが一人の令嬢であることに変わりはない。
 そういった知識から徹底的に離されていてもおかしくは無いだろう。
 万が一そうだとしたら、と考えればなんとなく嫌がられないのにも納得できる。知らないのであれば嫌がったり怯えたりはしない。
 啄むような、戯れのようなキスだけをするだけなら警戒しなくてもいいだろう。

「ちとせ」
「うん?」

 確かめた方がいいのでは、と貴臣の中に焦りがうまれる。今、この時にそれ以上をするつもりはないが、今後のために知っておくべきなのでは。
 そう思い、多少は赤みの残る頬のちとせに軽く口付け、頬を包んだままちとせの耳を撫でてやる。
 触れるか触れないか、かすめるように耳のふちを撫でられたちとせは目に見えてびくっと肩を揺らした。どうやら驚いたらしいそれに、構わず貴臣は耳のふちを指で優しく撫でていく。
 触れるだけの口付けの間に、時々ちとせの唇を食んでみるとそちらにも驚いたように貴臣の腕の中で肩を揺らしていた。

「ちとせ」

 多少ぐらついてはいるものの、きちんとした足場に貴臣の理性はまだ鎮座している。と、自分では思っていたのだが、貴臣自身が驚く程に自分の、ちとせを呼ぶ声は甘ったるかった。
 それは至近距離で貴臣の声を聞いていたちとせのほうが感じたらしく、赤い顔と、酸欠で涙の浮いた瞳で、困ったように貴臣を見上げている。
 貴臣の声になんらかの意図を汲み取ったらしいが、それでも逃げることも拒絶することもない。

「ちとせ、息はしたほうがいい」
「ひゃい……」

 恋愛経験値ゼロ、と自称しているちとせだが、貴臣もそれは重々承知している。婚約してから今まで、そして調べた結果婚約する前も。そういった相手がちとせにいたことは無い。
 正真正銘すべてが初めてだろうちとせが、ただの触れるだけのキスでタイミングが分からず息を忘れる。なら、それ以上だとどうするのだろうか。
 ゆっくりお願いします、と言われたのはつい最近ではあったが。
 顔を傾け、角度を変える。何度かまた触れるだけのキスをして、何度目かで、ちとせの唇をぺろりと舐めてみた。
 さすがに驚いたらしいちとせは目を開き何か言おうと口を開いたのだが、その隙に口を塞いでちとせの言おうとした言葉ごと貴臣は飲み込む。
 んむう、だかなんだかくぐもった声はちとせから聞こえたが、やはり息をするタイミングをはかりかねているらしかった。
 それでも先程の触れるだけの時とは違い、んむうだとかため息のような声だとか、小さな喘ぎが入ってくるために幾分か呼吸はしているようである。
 その小さな拙い喘ぎで己の理性がぐらぐらと揺れ、足場が崩れかけているのも貴臣は心底から理解はしているのだが。
 今後のために知りたいと思っていたことがなんだったかだとか、今はこれ以上進める気はないだとか思っていたが、その気持ちすらたったこれだけの接触で揺れるとはゆめにも思っていなかった。
 いつの間にかちとせの手は貴臣のシャツを握っていて、貴臣は片手でちとせの頬を包んでいた。時折引き寄せるようにちとせの後頭部にまわる貴臣の手が、逃がさないとでも言わんばかりにちとせの頭を固定していた。

「あ……」

 そして、ふと、ちとせが漏らしたその声で、貴臣は我に返った。
 ちとせの頭に回っていない貴臣の左手が、ちとせのふとももに触れていたのだ。
 肌を滑るようにしてその感触を楽しんでいたらしい己の左手は、ワンピースを随分たくしあげている。
 さすがにこれ以上はまずい、と貴臣が思い、ちとせが真っ赤な顔で貴臣を見上げているのを見て、ほとんど倒れかかっていた理性がなんとか持ち直すのを感じた。
 好きだと聞いてひと月も経っていないのだ。さすがに手を出すにはまだ早すぎるし、確かめたいことがあっただけである。
 頼むからこのまま拒絶か逃げるかしてくれ、と思いながらもそれを表には出さず、貴臣はちとせの足を撫でながら、頬を包んでいる手でちとせの唇をなぞった。

「うん?」
「あっ、ああああの、そ、そうだ私わ、忘れっ……」

 真っ赤だったと思ったら、ちとせの顔は一気に青くなった。けれどまたすぐに赤くなり、随分忙しなくなる。
 やっと己の理性を休ませられるだろうか、と貴臣が思ったあたりで、けれど急には止まれずに足を撫でる手だけはゆっくりと奥へとすすめていたら、その手をちとせに力なく止められた。
 なんとなくそれに安堵して「どうした?」と、知識があるのか確かめたいという当初の目的を思い出す。
 が、止めたタイミングから、きちんとそういった知識はあるのだろうとそちらにも若干貴臣は安心した。

「あ、あのっ、ちょ、ちょっと待って欲しくて」
「ああ」
「きっ……」
「き?」
「着替えさせてほしい……!」
「…………」

 ついさっきも同じような気持ちになったな。
 貴臣は思うが、口には出さなかった。ちとせが真っ赤で懇願するように言っているのも大きかったが、とりあえず言っている意味の理解ができなかったからだ。
 おあつらえ向きと言ってもいいほどに場は整っていて、服装もお互い寝るためのものだ。
 これ以上何を……というか、その服以外に何が場に合うと思っているんだ、と。

「……どうして着替えを?」

 とりあえず聞いてみようと思い、そのままきいてみると、ちとせは赤くなったり青くなったりをしばらく繰り返して、至近距離にいても聞こえないほどの小さな声で何事かを呟いた。
 が、貴臣はそれを聞き取れず、表情からそれもわかったらしいちとせが、泣きそうな顔で口を開く。

「し、下着を……か、かえたくて」

 この状況で?
 やはりこれも何度思ったかわからないが、下着と聞いて貴臣は合点がいく。
 よくある、可愛くない下着だから恥ずかしい、というものなのでは、と。
 大人びた表情をすることが多いちとせの、なんともいえず可愛い姿に、ぐらぐら揺れていた理性が今度こそしっかりと立った気持ちになる。
 が、こちらも今後のために一度は否定しておくべきだろうと「下着は気にならないが」と優しく伝えてやる。
 どうせ脱ぐだろう、というのは賢明にも伝えなかった。
 だがちとせはそうじゃなくて、と首を横に振る。

「可愛くないとか、そ、そういうのじゃなくて」

 貴臣の屋敷に頻繁に泊まるようになったちとせが、屋敷の部屋のクローゼットに入れている服や下着は一応きちんとしたものばかりだ。
 自分の部屋にあるものは適当にしていることもあるが、さすがに恋愛経験値ゼロであるちとせでも婚約者の家に下手なものを置ける訳もなく、いつ見られてもいいものを、プロポーズ事件以来せっせと入れ替えていた。もちろん貴臣が知る由もないのだが。

「そういうのじゃなくて?」
「うっ……そ、その……階段で声をかけられたときも早く着替えたくて焦ってて……えっと……」

 しどろもどろ、ごにょごにょとちとせは口の中で呟いた後、覚悟を決めたようにぎゅっと眉間に力を入れて貴臣を見上げた。
 押し倒されている状況からも、貴臣の性格からも、質問から逃げられる気がしなかったのだろう。

「可愛くないとかじゃなくて、その……」
「ああ」
「きょ、今日はちょっと、よく見てなくて、引き出しに入れてたの適当に持ってきちゃって」
「ああ」
「……え」
「え?」
「えっちな下着だから着替えさせてください!!」
「………………」

 何を言われたのか理解ができず、貴臣はしばらくちとせを見下ろしたまま無言になった。
 当のちとせは顔どころか全身真っ赤にして貴臣を見上げ、泣きそうに眉を下げている。
 貴臣の反応を気にしているようだが、貴臣はきっかり十秒思考も体の動きも停止して、やっと絞りだしたのが「それに何か問題が……?」だった。
 何か尋ねられると思っていなかったらしいちとせが、赤い顔のままぱくぱくと何度か唇を動かし、それから数秒停止する。おろおろと視線をさ迷わせたあとに、貴臣のシャツをきゅっと握った。

「いつもは、ちゃんと、普通のやつをね、着てるんだよ」
「……ああ」
「ほんとにたまたま、今日は見てなくて、こ、こんな、あれだけど、あの、痴女みたいだけどそうじゃなくって、た、貴臣くん……」
「うん?」
「き、きらいにならないで……」

 恥ずかしさからかじわりと浮かぶ涙に、貴臣は少しだけ焦った。
 貴臣自身今の状況を理解しているわけではないのだが、ちとせが下着を着替えたくて貴臣の手を止めたこと。普段はちとせ曰く「えっちな下着」とやらは着用しないことは、正しく理解しているはずだ。今その理解が必要なのかはよくわかってはいないが。
 それよりも、たったそれだけのことで嫌われると思って涙ぐんでいるちとせに貴臣は気を取られていた。
 急いで「なるわけがないだろう」と言い含めるように唇に触れるだけのキスを送り、頬、目じりと唇を寄せていく。
 好きだと言われるよりももっと大きなものを受け取ったような気がして、先程しっかりと立ったはずの理性がいとも簡単にぐらぐらと揺れ出す。
 着替えてきたら、戻ってくるつもりなのだろう発言だった。
 手を止めた理由も、下着故であり貴臣を拒絶した訳でもないのだ。そしてきちんと貴臣がこれからしようと匂わせていた行為にも理解がある。
 貴臣を受け入れるつもりで、ちとせは貴臣にされるがままになっていた。そして、下着ひとつで嫌われるかもしれないと怯え、泣きそうになっている。

「ちとせ」
「へっ!? あっちょっ、た、貴臣くん手! 手!! 私今下着がえっちでっ! み、見せられないやつで!」
「逃がしてやろうと思っていたんだ」
「えっ」

 言いながら、貴臣はちとせの首筋に吸い付き、そのまま鎖骨へと唇を落としていく。ひゃいだとかなんとかちとせは叫ぶがお構い無しだ。
 その間に先程ふとももに触れていた左手を、色気も何もあったものではないが、ずぼっと勢いよくちとせの腰あたりまで突っ込んでみた。
 たしかに、ちとせの腰あたりにあるはずの布面積は極端に少ない。少ないと言うよりも紐だった。
 サイドで結ぶタイプのものなのか、その紐を引っ張ればあっけなくそれはするすると抜けていく。
 けれど最後まで抜ききらず、紐をたどるように腰の後ろへと手を伸ばしてなぞっていけば、やはりそこも心もとない紐があるきりだ。触れてみた感触からすれば、体の前面には多少布はあるようだが。

「た、たかおみくんってば!」
「見たい」
「うっ……!?」

 ストレートな物言いに、ちとせが困ったように貴臣を見上げる。
 答えが返ってこない間に貴臣はちとせの片足に跨り、撫でていた方の膝裏に手をやり持ち上げた。ワンピースが邪魔になり見えないが、ちとせがワンピースを押さえるように裾へと手をやった。

「見っ……いやっあのっ貴臣くん待とうか!?」
「普段はつけない下着で恥ずかしいだけで、この先に進むことが嫌ではないんだろう?」
「えっ!?」

 左手はスカートの中、腰あたりを撫でながら、貴臣はちとせをまっすぐ見つめて言う。
 貴臣の言葉を飲み込んだちとせが、ぼぼぼ、と顔を赤くしておろおろ視線をさ迷わせた末に小さく頷いたのを見て、貴臣は目を細めて笑った。
 目が合った瞬間にさらにちとせが真っ赤になり、ぎゅうと目を閉じてしまう。ワンピースの裾をおさえていた手は、ちとせの頬を包んでいた手でよけてベッドへ押し付けるように握れば力なく握り返してきた。

「ところでどうしてこんな下着を? ……誰かに貰ったのか?」

 この反応からしてちとせが自ら購入するとは考えにくい。誰かに貰った、が一番可能性としては高そうではあるが、男の名前が出てきたらその男を消しそうだなと貴臣はちとせの頬にキスをしながら考える。

「そ、その、姉みたいな人達にひとつくらいあったほうがいいって言われて」
「なるほど」

 ちとせの言いぶりからしても、月光館学園で出会った──岳羽ゆかりたちだろうことは想像がついた。そのためそれ以上は聞かず、浮かせた方の足を再度持ち上げ、貴臣はその膝の内側へ一度唇を寄せた。
 そのままぺろりと舐め、食むように吸えば、膝の内側に小さく赤い痕がつく。
 今度こそワンピースの裾をおさえるのも忘れ、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりしているちとせはその痕を見てますます顔を赤くさせてしまった。が、やはり拒絶はない。

「え、えっちだ……」
「そういうことをしようとしている男には、喜ばしい褒め言葉だな」

 小さく笑いながら、貴臣はますます赤くなったちとせの膝にもう一度唇を寄せた。

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