鳴上悠は、隣で気持ちよさそうに眠るちとせを見て、自分もまともな男だったんだなと改めて思った。
 ちとせと離れていた期間、特にちとせ以外の女性になにか思うことはなく、もしかして不能にでもなったのでは?と思っていたのだが、ちとせとまた付き合いだし、そしてトントン拍子に同棲することになった。
 悠は警察学校があるため週末くらいしか家には戻って来れないが、それでも二人で一緒に居ることを選んだのだ。
 そして本日、はじめて隣で、同じベッドで眠ることになった。
 高校生の頃にしたって大学生の初めの頃にしたって、一度離れるまでにちとせにキス以上のことをしたことはなかった。それでお互い満足していたし、何よりそんな暇もなかったのが一番なのだが。
 ちとせは最初こそ緊張する素振りを見せたものの、連日のハードワークで疲れていたのか布団に入って数分後には眠りについてしまった。
 悠が頬を触っても髪を触っても何も反応はない。
 疲れているだろうちとせがゆっくり眠れることは悠にとってもいいことではあるのだが、そこで自分も男だなと悠も再確認したわけで。
 眠れないのだ。
 触れたくて、抱きしめたくて、悠自身がちとせを欲しいと思っている。思っているのだが、相手はすやすやと夢の中のためその気持ちを持て余すことになってしまっていた。
 もやもやとする気持ちを振り払うように、悠はもう一度ちとせの頬を撫でて、それから頭を撫でてみる。
 わかっているのかいないのか、ちとせは「うん……?」と喉の奥で唸ると悠の手に頬を擦り寄せた。
 あまりにも無防備なそれに悠も違う意味で喉の奥で唸るが、気を取り直して手を離し、ぎゅっと目を閉じる。
 同棲をはじめたのだから、いつでもその機会は巡ってくるだろう、と自分に言い聞かせながら。焦ることも心配することも何も無いはずである。
 いくら大学の友人たちに「えっ彼女に操たててる?」「男気しか感じない……」「やだ惚れちゃう悠抱いて!」と言われようとも何も焦る必要などないのだ、と。
「はあ……」
 話し合うにしたって内容が内容である。話せるわけが無い。
 そういう空気に持っていくことは悠もしたことがないため未知数だし、まずちとせの気持ちを優先させねばとも思うのも事実だった。
 相談するにもこんなこと話せる相手はいない。陽介に相談したところで惚気けるなと言われるのがオチである。
「寝るか……」
 寝れるかは怪しいが、悠は深呼吸をして大きく静かに息を吐いた。煩悩も一緒に消えてくれと思いながら。
 

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