「…やっと半分くらいかなあ」

 棍を握り締めたままタルタロスの中から窓の外を見つめる。ずいぶん高い位置まできたけど、ようやく半分くらいのぼったというところだろうそれに小さくため息をつく。タルタロスの外の風景は塀の向こう側は霧で見えないけど中はそのままの風景でやっぱり不思議な気持ちになってしまうけどそろそろこれにも慣れてきた。

「これだけのぼって半分クマ?」
「んー…多分。今までのペースでいけばてっぺんまで半年くらいか…でもシャドウ絶対強くなってるしなあ」

 私の後ろからちょこちょこついてきたクマの質問にため息交じりに答えれば、クマは困ったように私を見上げて「ここでも充分つよいクマ」と言って私と同じように窓から外を見る。満月の浮かぶ空を一度見て、私は窓から視線をはずした。どうやらテレビの中のタルタロスは毎日が満月らしく、月がかけたところを見たことがない。だからシャドウが活発なのもきっとあるんだろうけど。まあこのタルタロスをのぼる時に前とは違うことがあるとすれば、ところどころに控えていた門番のようなひときわ強いシャドウがいないということだろう。まあそのシャドウがいないにしても、一人で戦って頂上を目指すというのは骨が折れる作業だ。クマは前に言ってた通り戦力にはならないし、押せばひっくりかえってしまうくらいに非力だから守らなくちゃいけない。でもまあこの世界で暮らしているだけはある、隠れるという動作については言うことがないのでそこまで困ったことはないのだけど。

「今日はこれくらいで帰るかな…、疲れたし」
「そういえばチトセチャン、明日シギョウシキじゃないクマか?」

 意味を分かっていないのだろう始業式という単語に私はすばやく腕にしていた時計を見ていた。時間は12時前を指している。まずい、春休みだからって一日中テレビの中にこもりすぎてて時間の流れが全く理解できてなかった。いい加減帰ってお風呂入ってご飯食べて寝ないと明日絶対起きれない気がする。最初っから遅刻なんて願い下げだ。

「そうだ、ごめんもう終わって帰ろう。明日からまたあんまり来れなくなるけどしっかりね、クマ」
「わかってるクマ!トモダチと同じくらすになれるといいクマね」

 そう言って笑うクマに私はあいまいに笑ってから、目の前にあった昇降機に手をかざしエントランスへと降りるように作業をする。高校一年の半年間で仲良くなれたのは花村と千枝、雪子だけだった。他ともそれなりに仲良くなってはいるけど、クラスメイトという関係からは抜け出せない、そんな感覚だ。

「そうだね。また報告に来るから、それまでいい子でね」
「わかったクマ!」

 エントランスに下りて、私はクマの頭をぽんぽんとなでてから出口であるテレビの中に入って自分の部屋に出る。薄暗いそこは私が朝テレビの中に入ったときのままで、本当に一日中テレビの中に居たのかと自分にあきれてしまった。
 美鶴姉さんに頼んで召喚器や棍は送ってもらったけど、詳しくは説明していない。それに送ってもらってから気がついたけどどうやらテレビの中では召喚器を必要としなくてもペルソナは使えるらしい。しかも美鶴姉さんは気を利かせてか、湊の召喚器まで送ってくれるものだから苦笑をせざるを得なかったのだけど。…まあ、お守りとしてテレビの中に入る時に私の召喚器だけは持っていってるのはいるけど。

 とりあえず明日の準備をしながら、ちらりと考えをべつのところに持っていき、星がきらめく空へと窓から視線をうつす。

「湊に追いついたよ」

 ぽつり、こぼしてから自嘲めいた笑いを口元に浮かべて私は窓から視線をそらした。考えたってどうしようもないことだ。

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