始業式があるからと、ホームルームで解散してクラスメイトは別々に体育館へと向かいだした。始業式だから話しかけづらいのかか先生に誰が落ち武者だ発言をしたためか、まあきっと両者だろうけど鳴上に話しかける生徒はいなくて、こういう時率先して話しかけそうな花村はいまだに股間が痛いのかフラフラしながら気力もなく体育館のほうへ歩いていっていた。
生徒たちの流れについていけばいいか、と思っているらしい鳴上も鳴上でシューズを持つと教室内をきょろりと見回してから人の波に乗ろうとしている。
「あ、えーと鳴上…くん?」
そんな中体育館シューズを持って鳴上を呼び止めれば、鳴上は驚いたように私を振り返ってから「あ」と何かに気付いたようにちいさく声を漏らす。なんだろうと思って首を傾げてみたら、なんでもないというように首を横に振られてしまった。それから苦笑気味に笑われる。
「普通に呼んでくれていいから」
「あ、じゃあ鳴上で。私も去年転校してきたんだけど、…って、私桐条ちとせっていうの。斜め後ろの席だからよろしく」
「よろしく」
当たり障りのないことを話して、鼻の長いおじいさんのことを訊こうか悩む。知らないといわれればそれで終わりだし、未発達のこの力の感覚はひどくおぼろげで、だけど確かな感覚で。アイギスも湊もあの力を手に入れる時に出会ったやらなにやら言っていた気がするから、もしかしたらとは思うけど、でも…。
「菜々子ちゃんのところにきた"おにいちゃん"って、もしかして鳴上のこと?」
「え?何で知って…」
「私、菜々子ちゃんとも堂島さんとも仲良しだから。今朝も奈々子ちゃんうれしそうに話してたし」
「微妙に避けられてるような気がしたけど…」
「あはは、菜々子ちゃん照れ屋だもんねえ。私前は怖がられて会うたびに泣かれてたもん」
聞こうにも聞けれずにけらけら笑って話せば、鳴上が微妙な顔をした。なんで泣かれたんだ、とでも言わんばかりのそれに鳴上の肩をぽんぽんたたく。
「堂島さんいない時で菜々子ちゃんと気まずいなーって思った時訊いてみたらいいよ。どうして怖がってたの、って。笑えるから」
「笑える?」
「だからそれを菜々子ちゃんに訊いてみるの。普通に話してくれると思うし…あ、堂島さんにも訊いてみてもいいかもね」
堂島さんなら多分呆れながら私のこと話すだろうしいい話しの種にはなると思うけどなあ。
いきなり来た家じゃ会話に多分苦労するだろうと思ってネタを教えてあげたけど、鳴上はその意図が分かったのかうんうんと何度か頷いてなるほど、と小さく言った。
「桐条も転校してきたって…」
「え?私?そうそう、去年の二学期の中途半端な時期から一人暮らししてる。家の都合っていうより私の都合みたいな感じだけど」
笑って言えば、鳴上がなんともいえない顔をして私を見る。おかしい、今ちゃんと私笑えてたはずなんだけど。そう思ってちらりと鳴上を見上げれば、鳴上はやっぱり微妙な顔のまま私を見て、それからまるで年下にするようにわしゃわしゃと頭をなでてきた。ちょ、思いっきり子供あつかい!
「なん」
「ごめん、手が勝手に」
「そ、それだけ私が小さいってことですか鳴上さん」
「そういうわけじゃ…でも確かに小さいけど、言いたくないこと訊いたかと思って」
淡々と言う鳴上に私は口元に苦笑を浮かべた。鳴上はどうやら鋭い人間らしい。作り笑いをしたのがバレて気まずくなってうつむけば、鳴上はまたわしゃわしゃ私の頭をなでる。これは同級生というよりも子供にする手つきじゃ…?むしろなんか子ども扱いすぎる扱いうけてる気がする。確かに私の背は小さいし男子諸君からしてみたら私の頭はなでやすかったり腕が置けたりというなんとも微妙な位置にあるとは思うけども。
「そういうわけじゃないんだけど…まあ、気にしないでいいよ。もうぜんぜん大丈夫だし」
そういって笑えば、鳴上も苦笑をして廊下に視線をやった。体育館がすぐそこだからか、体育館への渡り廊下は生徒でごったがえしている。
「あそこ、体育館。道覚えた?」
「…微妙かも」
「わかんなかったらなんでも聞いてね。って言ってもこの高校歴半年なんだけどね私も」
「俺はまだ20分くらいだから」
「お、じゃあ私のが先輩?なんでも聞きたまえ鳴上くん」
言って笑えば、鳴上も楽しそうに笑ってくれた。苦笑じゃないそれはどうやら自然に浮かんできたもののようで、私も安心する。転校してきた初日っていうのは、どうしても緊張してしまうものだろうし、誰かが話しかけてきてくれたらほっとしたのを私も覚えてる。これで鳴上の緊張がほぐれればいいんだけど…って、あれ、おかしいな私最初聞きたかったことの目的とぜんぜんかけはなれたことしたような…。
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