キャラメル、色とりどりなキャンディの袋、甘いチョコレートに、かわいいカップケーキ、たっぷりクリームの入ったシュークリーム。テーブルの上に山積みにされたお菓子を見て、わたしは思わずそのお菓子を持ってきてくれたひとにひゃあだかなんだか言いながら抱き着いていた。身長差があるために肩にぶらさがるような感じになるのはいつものことなので気にしないし、このお菓子を持ってきてくれた迅も特に気にせずに「よしよし」なんて言いながらわたしの頭をなでている。もう!お菓子の山!さいこう!!
「迅さいこうだよ!お菓子!山積み!天国!」
「おー、その顔が見たかったんだよなーよしよし」
わたしがぶらさがったまま迅はソファへ座ると、わたしを膝にのせてよしよしとまたわたしの頭をなでた。珍しくつけてたカチューシャは曲がってしまったけど今日はそれくらいで怒るわたしではない。なんせお菓子の山が目の前にある。大好物だ。むしろ三食お菓子でもいいと思っているくらいのレベルで甘いものがすきだ。なんでごはんって甘くないんだろう、お砂糖かけたら甘くなるよね。と前に忍田さんの居る前でぼやいた時はなぜか本気で食生活を心配されて一週間くらい忍田さんがわたしのごはんのお世話をしてくれたことがあった。もう何年前だったかなあ。この基地ができる前だったっけ。いつだったっけ。小南ちゃんが入ってきたくらいの時だったかなあ。いやそれよりも今は目の前のお菓子の山!今日ってわたしの誕生日でもなければだれかの誕生日というわけではない。たまたま迅につかまってここへ連れてこられただけだけど来てよかったほんとよかった。
「こ、これ、だ、だれの」
ちらりと迅を見てみれば、迅はにんまりと笑っただけだった。だけど聞こえてきた”声”にわたしは歓声を上げて「やったー!」と叫び、また迅へ抱き着く。膝の上に座っているため今度はぶらさがらずにきちんと抱き着ける。
「毎日お疲れのちはるにおれからのささやかなプレゼントってやつだ」
「迅さいこう……わたしこのまま迅のお嫁さんになりたい……」
「お菓子で釣られる結婚ってどうなんすか」
言いながら呆れつつ入ってきた京介は、お菓子の山とわたし、それに迅を見るなり大きなため息をついてわたしへ近づいてくると、ポケットへ手を突っ込んでぱっとわたしの前でひらく。そこに乗っていたマシュマロの袋に、わたしは京介に視線をあげる。く、くれるってことだろうか。わくわくしながら京介を見上げれば「どうぞ」と言われて袋をあけてくれた。京介が指でマシュマロをつまめばふんわりしたその柔らかさに抗わずにマシュマロは形をかえる。うっおいしそう。
「中にチョコが入ってるやつみたいです」
あーん、と口をあければ驚いたような京介が、だけど少ししてからわたしのくちの中にマシュマロをいれた。ほんのり広がる甘さと柔らかな口どけに幸せゲージが一気に上がってきた。しあわせだ……甘いもの常に食べてたい……。こんな幸せがあっていいんだろうか……。
「わたしの体の90%はお菓子でできてて、残りの10%はミルクティーでできてるんだと思うと幸せになれる……」
「それただのお菓子じゃないですか」
「そんだけすきってことだろ」
「好きです。大好きです。いやそんな言葉じゃ言い表せないですお菓子愛してる」
それおれに向けて言ってくれたらいいのに、なんて冗談を迅が言っているのを聞き流しながら、わたしはマシュマロのなくなった口の中へチョコレートを放り込んだ。ううっおいしい甘い幸せ……!一粒で幸せを山ほどくれるチョコレートはほんとに楽園か何かの食べ物なんだと思う。うん。ほんと。学校じゃ堂々とお菓子なんて食べられないからこうやって食べられる幸せ……。せいぜい学校で食べられるのなんて飴とかチョコレートしかない。いやほかのボーダーのみんながお菓子恵んでくれたりするからお菓子が枯渇するなんてことはないけど。このさい餌付けでもなんでもいい。
「その体のどこにこれだけのカロリーが蓄えられていくんですかね……」
「カロリーは誰しも生きることによって消費されるんだよ京介くんや」
「いや、それはそうだと思うんですけど量が半端ないじゃないですか。ちはる先輩、細身で小さいのに」
小さいは余計である。むっとしながらいまだわたしの目の前にたっている京介は無視をしてお菓子の山に手を伸ばす。次はなに食べようかなシュークリームかな!お皿に乗っているシュークリームを手にとって一口食べる。中に入ってるクリームはぎっしりだし、カスタードと生クリームの比率が最高。……玉狛ってこんな天国だったっけ……。どこにも所属せずにフリーで行動してるわたしからしてみたら玉狛にいるっていうのがなんか違和感なんだけどこれだけお菓子をもらえるというのであれば毎日通ってもいいかもしれない。むしろここに住みたい。
「玉狛に住みたい」
「いつでも大歓迎だけどなー」
「ちはる先輩ならみんな喜びますよ。特に小南先輩とかが」
シュークリームを食べきって、指についていたクリームを舐める。最後までクリームたっぷりの良いシュークリームであった。ああそっか玉狛にくれば四六時中小南ちゃんと一緒にいられるのか。小南ちゃんかわいくて大好きだしすごく懐いてくれるからほんとあの子妹にほしい。いや同じ年なんだけど。しかも見た目だけでいくとわたしのほうがずいぶん年下に見えるんだけど。童顔低身長っていうのは時に使える代物ではあるけどなんだかなあ。としそうおうの、こう、うつくしいじょせいにあこがれるよね!なんていうのを二つ目のシュークリームをほおばりながら思う夕方である。
まあいくら玉狛に入りたくっても入れないのはわかってるんだけどなあ。いや入れないっていうか、これもまあ自分の気の持ちようなんだけど。
「はあ……いっそお菓子になりたい……」
「お菓子になるまえにここのケーキとか全部食べろな」
「それはもちろん食べてからお菓子になる」
「……今日は突っ込み不在ですね」
もりもりシュークリームを食べているわたしを見ながら、京介が呆れたようにため息をついてそう言った。だけど「夕食は食べていってくださいね」と言われ、わたしはシュークリームをもうひとつ食べきってから「はーい!」と大きく返事をしておいた。レイジのごはんおいしいからだいすきだし。そういえばレイジにも昔あんまりにも甘いもの食べるから食生活を心配されたことが……あれっわたしそんなに食生活偏ってる……?いや三食きちんと食べてるし!食事はちゃんと健康だし!いやまあお菓子でいいよねって思うことはあるけど。というかおもってる。まあおやつと称してお菓子を食べてる時間が多すぎるんだろうなあ。それも、しょうがないといえばしょうがないんだけど。
「はー、誰かに扶養されてお菓子を食べる生活がしたい」
「だからおれがするって」
「毎日お菓子三昧なら考える」
「わかった約束する」
「簡単にそこで結婚の約束せずにテーブルの上片づけないと小南先輩が帰ってきますよ」
小南ちゃん帰ってきたら一緒にお菓子食べれる!と思うけどたぶんなんでか知らないけど迅にくっついてると怒る小南ちゃんだからこの状態はよろしくないということか。そしてこうやってお菓子食べてる間は迅はわたしを離そうとしないし。”読んで”みてもいいけど、戦い以外じゃそういうのは読みたくないしなあ。ということは早く食べて迅から解放してもらわねばなるまい。
ちらりと迅を見てみれば、迅は目が合ったらにっと笑ってわたしの頭をわしゃわしゃ撫でた。今度はカチューシャは曲がらなかったけど、案外近くに迅の顔があったことに少し驚く。膝の上に座ったまま、結構な至近距離だけど別にどうということはないなあとなんとなく思うのだけど。なんか迅は、男の人というよりも。
「……お兄ちゃんみたいだからか……」
カップケーキを手にとって言えば、迅が固まったような気がした。目の前のソファに座りながら、京介が面白そうに息をもらした。
戻る.