「太りそうだよなー」

 急に教室内に現れたと思ったら開口一番にそう失礼なことをいったのは、バナナオレなんていう顔に似合わないかわいいパックの飲み物のストローを加えた陽介だった。失礼すぎて思わず陽介のすねを蹴ってやれば、陽介は「いってえ」なんて言うもののダメージはそんなに入っていないらしくそのままわたしの前の椅子へと腰かける。視線は机の上に山積みにされているいろんな種類のチョコレートだった。

「失礼なこという陽介には一つとてあげない」
「いや別にほしいわけじゃねえって」

 さすがに胸やけしそう、と陽介は言うとバナナオレのパックを手で潰した。飲み終わったそれをポケットへといれながら、視線はやっぱりチョコレートの山である。こんな光景いつものことだろうにと思うもののなんだかその視線がいつもと違うような気がしてこのチョコレートを手に入れた経緯を思い出してみる。けど、結局これもいつものことでもらい物だった。知らない人間からお菓子をもらうなと秀次から言われていたけど知らない人間ではなくクラスメイトだったり同じ学校の人だったりするのでそんなの気にせずにもらっていたら今日はこれだけもらってしまった。餌付けされてるんすか、なんて言われたのはもうずいぶんまえだ。そういう京介だってわたしにお菓子恵んでくれるくせになあ。まったくもっていいことである。

「チョコレートは世界の宝です」
「ちはるの体全部砂糖でできてんの?」
「それは本望だね!?」

 砂糖でできたからだとかなにそれほしい。むしろそうなりたい。砂糖でできたからだで毎日お菓子を食べる幸せ……!思いつつもチョコレートを口にいれてぱきんと噛む。板チョコもたくさんもらったし、市販のトリュフみたいなものもたくさんもらった。板チョコを開発した人は本当にすばらしいとわたしは常日頃思っている。これだけの板がすべてチョコレートというのがまず至極のものだ。そういえば今日はやたらと板チョコもらったなあ。というか同じ男の子が板チョコを袋いっぱいくれた。なまえなんだったっけ覚えてないんだけど。いつもわたしにチョコレートを恵んでくれるやさしいひとである。

「チョコ」
「ん?」
「いや……、今日はやたらともらってると思って」

 まあ確かに今日はチョコレートしかもらってない。わたしがよく食べるというのが知れ渡っているためによくお菓子は恵んでもらうけどいつもならチョコレートの他にも飴とか、マドレーヌとか、お菓子のマカロンなんかも貰うことがある。たけのことかきのこの山とか里とか。そういえば前に透にたけのこをもらったことがあったっけか。あれって任務の時だったかなあ。その髪型でたけのこかー、なんて思った記憶がすでに遠い。

「今日はなんか袋いっぱいに板チョコをくれたんだよ!プレゼントだって言って!幸せ!」
「へえ?」

 プレゼントねえ、なんて陽介が言って椅子を斜めにしてゆらゆらと揺れる。いったいなんなのか。チョコを食べながらちらりと陽介を見てみれば何かを考えるようにチョコレートの山を見ていた。……もしかしてほしい?いらないって言ってたけどやっぱり見てたらほしくなったのかな……。まあしょうがないなたくさんもらったしひとくちくらいあげてもいいかなって今なら思ってあげられる!バナナオレ飲んでたけど後口にチョコレートの甘さは必要だと思うしね!

「はい」
「は?」
「口あけて!あーん」
「は!?」

 よくわからずに口をあけた陽介の口の中に、食べかけだったけどまあいいかと思ってチョコレートを突っ込んであげた。もうほとんどなかったし最後の二口くらいだったからそのまま突っ込んで口を閉じさせたけど、しばらく唖然とした陽介は口の中にあるものをやっと確認したのかバツの悪そうな顔でそれを租借しだす。よしよしちゃんと味わって食べるように陽介くん。うんうん頷きながら次の板チョコをあけていたら、陽介がチョコレートを飲み込んだらしく眉間に皺をよせてわたしをじっと見ているところだった。なんでチョコレートという幸せの塊みたいなものをあげたのにそんな顔を……も、もしかして一枚全部ほしかったとか……?そうなると要相談になるんだけどなこれも一応もらいものなわけで。

「一枚ほしいなら要相談なんだけど……」
「どうしてそういう思考になるんだよ」

 はあ、と大きなため息をつかれてしまった。いったいなんだっていうんだろう。あ、でも一枚ほしかったわけじゃないのかそれならまあ別になんでもいいや!

「だって難しい顔してたからチョコレートほしいのかなって」
「……まあ別にいーけどな」

 どうやら本当にチョコレートがほしかったわけではないらしい。二枚目のチョコレートも食べきってふうとため息をつけば予鈴がなった。ああ、お菓子禁止の50分がはじまる……。ひそかにポケットの中にしのばせている飴やキャラメルと先生にみつからないように食べる時間がはじまるというのか……。なんとなくテンションを下げながらチョコレートをかばんの中にしまえば、立ち上がった陽介が「ちはる」とわたしの名前を呼んだ。それにポケットの中に入っているキャラメルを探しながら上を向けば、顎をすくわれて口の中にぽいっと何かいれられる。ひろがるあまみに頬が緩んだ。おいしい……これキャラメルだ……しかもこの味は学校近くにあるお菓子屋さんの限定キャラメルと見た……!!なんてレアなものを陽介が持ってるんだろうむしろわたしの口の中にいれてくれたんだろう……!?あっチョコレートのお礼!?さすが陽介義理堅い……かは知らないけどいいおとこ!

「キャラメル……!」
「たまたま持ってたからやるよちはる」
「んんんおいひいありがと陽介いい男!」
「……はー……」

 お礼を言ったというのに盛大にため息をつかれてしまった。その上わしゃわしゃと頭をなでられて、陽介は教室を出て行った。なんなんだろうあの男毎回のことながら行動がよめない。教室から出ていく陽介の背中がなんとなく哀愁ただよっていたのはきっと気のせいではないんだろうと思う。
 

戻る