たまにはランク戦にでも出てみたら?といろんなひとから言われているものの前にあそこを粉々にしてしまって以来どうにも行きづらくなっててつい足が遠のいてしまっている。秀次やら透やらが戦いたいと言ってきていたのは記憶に新しいけどランク戦なんて本当に何年出ていないことやら。団体戦といってもわたしは、わたしとオペレーターだけのチームだ。しかもそのオペレーターとはめったに連絡なんてとらないわけで。大体どこにいるのかも謎だった。任務が入ったりすると本部にきちんといてオペレーターはしてくれるから問題はないんだけどあんまり顔を合わせたことがないのはまた事実だった。いや仲が悪いわけじゃなくってたぶん連絡しなくってもお互いのことわかってる分ほんとに連絡はしないって感じなんだけど。
「ランク戦かあ」
おかげさまで黒トリガー持ちでもないのにほぼS級隊員みたいな扱いを受けている。明確にランク戦へ参加してはいけないなんて言われてはいないのだけどランク戦に参加した時に部屋を粉々にしてしまい壁に穴をあけるという大事件を起こしてからは行きたくなくなってしまった。今では言われるのが実力:不明。ということだけだった。そ、そこまでひどく戦ってたわけじゃないんだけどなあ……。C級のブースを使えば個人戦もできるといえばできるけどそれも結局は同じことだから申し込まれてもあんまりしないし。そもそもC級の子たちの前で壁を壊すなんてことしでかしてしまったらおびえさせそうでおそろしい。
「うん、今日もお菓子がおいしい……」
「あっ、ま、待ってくださいちはる先輩!」
余計なこと考えずにさっさと家に帰ろう。そう思って足を家のほうへと進めれば、後ろの人ごみから声をかけられてわたしはそっちを振り向いていた。さすがに歩きながらお菓子をほおばるわけにもいかないので通学中、帰宅中は飴やキャラメルを食べていることが多い。今も……まあこれは秀次が甘味が足りず倒れられても困ると言ってくれた飴を食べている途中だったので微妙に「ふぁい」なんていうへんな返事になってしまったけど、声をかけてきた人……というか藍ちゃんが頬を紅潮させながら先輩、ともう一度わたしを呼ぶ。というか甘味だけじゃなくってお菓子だったら別に塩辛いのだってなんだってすきなんだけどなそこらへんわかってないなあ秀次は!……まあ甘いもののほうがすきだけど!あと今日はほんとに甘味不足だったからキャラメルとか飴とかくれたのはとっても助かったけど!
「あいちゃんだ!」
「お久しぶりです先輩。こんなところで会えるなんて偶然……!」
「元気だったー?准とは時々会うけどあいちゃんは久しぶりだもんね」
「は、はい!先輩は今帰りですか?」
小南ちゃんと同じくなんかもうかわいくってしょうがない後輩の一人である。女の子の隊員がA級になると少なくなってくるから余計に懐いてくれるのかなあなんて思うけどもはやかわいければなんでもいい。とは言ってもあいちゃんもわたしよりかは身長は高いのでわたしなんかがかわいいと言ってしまっていいのか疑問には時々思うけどかわいいものはかわいいのだからしょうがないと思う。
「うん。今日はなんにもないから帰ろうかなと」
「よければ今から私とお茶でもしませんか?最近、近くにケーキ屋さんができたんですよ」
「ケーキ!」
「店内で飲食もできるらしくて」
「たべる!」
知らない人についていっちゃだめってあれほど言ってるじゃないですか。という烏丸京介という男の声が一瞬脳裏をよぎっていった気がしたけど聞こえなかったことにした。だいたいあいちゃんは知らない人ではないのでついていってもいいはずだ。食べる、と即答した時のあいちゃんの表情が普段のつんとした表情なんて比べてはいけないほどかわいかったのでもう今日はこれだけで満足かもしれないなあと思う。あ、うそ、ケーキ食べて満足。それにしても最近このあたりにケーキ屋さんができていたとは。わたしの情報収集不足……!
嬉しそうにしてるあいちゃんの横を歩きながら、あいちゃんが最近の嵐山隊のことを教えてくれる。昨日もテレビに出てたよなあ忙しいのにこんなわたしの相手までしてくれるなんてできた子である。
「そういえばちょっとした質問なんだけど」
「はい?」
「もし私がランク戦……まあ団体じゃなくても団体でもどっちでもいいんだけどしたいって言ったらあいちゃんどう」
「ぜひ私と戦ってください!」
わあ、言い終わる前にすごい勢いでくいつかれてしまった。ランク戦に出てみたら、と言ってきたのはまあ主に小南ちゃんや迅、それに京介、あとは陽介やら慶やらなんだけどまさかあいちゃんまでくいついてくれるとは思わなかった。さっきよりもずっと目がキラキラしてるのは気のせいなんかじゃないだろうなこれは……。うーん、自分から言っておいてなんだけど粉々にしない自信がない……。
「あいちゃ」
どうしたものか。思って、あいちゃんに声をかけようとしたら割と近くで門のひらく気配と、それと同時に鳴りだした警報。イレギュラー門だ。最近多いんだけどどうなってるんだろうと思うものの、イレギュラー門が開くことや近隣の住民へ避難を促す放送を聞きながらわたしは視線をあげてあいちゃんに目くばせをする。たぶん近くにいるのはわたしたちだろう。視線をあげれば少し離れた場所で門がひらくのが見える。
「わたし行くからあいちゃんはみんなの誘導お願いねー」
「私もっ……!」
「たぶん大丈夫だろうけどがれきとか飛んできたら危ないし。ケーキはそのあと行こー!」
「……はい、わかりました」
一緒に戦いたかった、なんていうかわいい声がちらりと聞こえてきて思わずふふっと笑いを漏らしてしまった。だけどあいちゃんはそれに気づかずにトリガーを起動させざわついている街の中へと飛び込んでいく。見送ってから私もトリガーを起動させて門が開いたほうへと足を向けた。
それにしても今日は特に甘いものが足りてないのになんできちゃうかなあ。これからあいちゃんとおいしいケーキを食べる予定だったのに。口の中にある飴ももうとけちゃうし、ああ、むしろ噛んじゃえば気にせずに戦えるか。
「なあんだ、モールモッドか」
門のすぐ下、今でてきたらしい近界民を見てため息をつく。これなら一瞬で終わらせられるしすぐにケーキを食べにいける。屋根の上に乗ったまま口の中に残っていた飴をがり、と噛んですべて飲み込んだ。折角めずらしく秀次がくれたものだったからもうちょっと味わって食べたかったのに残念だなあ。まあ、またもらえばいっか。素直にくれるなんて思わないけど。
「いっくよー」
手に握る鎌の柄をなでて、屋根から飛び降りる。こちらに気付いたモールモッドが顔をあげるけど、その時にはすでにわたしはもうモールモッドの横、地面に足をついていた。飴、かむほどでもなかったかな。ほんとに勿体ないことしちゃった。わたしが地面に足をつけたと同時、体の真ん中からぱっくりと半分にわれたモールモッドを見て、わたしはそこに座る。これ事後処理誰かしてくれないかな。めんどくさいし。ケーキ食べなきゃ。飴も、かんじゃったし。あまいもの、たべないと。トリオン体から実体に戻ったらポケットくらいにはお菓子は言ってるからいいんだけど、戻っちゃったほうがたぶん制御できなくて声聞こえるもんなあ。
はあ、とため息をついて武器を横へ置いた。死神の鎌のようだと言われたこれは、確かに鎌の形だけどおしゃれなデザインなのになあ。死神とはまったくもって失礼である。弧を描く刃のところも、外側に濃いエメラルドグリーンで装飾がしてあるし、柄の部分だって黒地に金色の模様がついていてきれいだと思うんだけど。もう何年もわたしの相棒だ。
「三輪隊、到着し……、ちはる……?」
「秀次、陽介」
どうしてこんなところに。すうっと頭の中に秀次の声が入ってきて、わたしはごまかすように笑った。うしろに陽介が居て透たちの気配もすることから全員での出動なんだろうけど先に近くにいたわたしが倒してしまっていたからそう思ったんだろう。それに今日はわたし学校終わると同時に教室から出たもんなあ。食べ物がない!って言いながら。
なにかをずっと食べておかなくちゃだめというわけじゃなくて、なぜかはわからないけど甘いものを食べていると力の制御がしやすかったから好んで食べてたし、そのおかげなのか太りもしないし健康にも影響がなかったから食べ続けてたんだけど。秀次はそれを知ってるから今わたしがここにいるのを不思議に思ってるんだろうなあ……。ないならないで別にいいんだけどただ少し、声が聞こえすぎるだけで。
「事後処理任せていい?あいちゃんとケーキ、食べたい」
「……わかった」
「え!?いいのかよ秀次」
「ありがとー」
「ちはる」
ぱっと立ち上がって実体に戻る。ポケットに飴くらいは入ってると思うしつなぎにはなるはずだと思ってポケットをあされば、秀次がぽんとわたしに何かを投げた。思わずうけとれば、手の中にあるのは今日もらったものではない飴で、秀次に視線をやるともうすでに真っ二つになったモールモッドのほうへ視線を向けていた。……これはこれで餌付けされてるような気がするけど、わたしのためを思って投げてくれたのだろうそれをひらいて口にいれる。あー……おいしい……レモンのあめ……!しあわせの味する……!
透たちも近くにくる気配がするためややこしいことになる前に撤退しよう……。あいちゃんひろって、事後処理は任せてケーキ、食べる……!たぶん今日は秀次がゆるしてくれるはず……!
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