ふあ、とあくびをしながらちはるが眠そうに目をこする。見た目が完全に小学……いやせいぜい中学生くらいにしか見えないくらいの身長と顔の割にいざ戦いの中に入ると死神みたいだと言われるほどに攻撃に躊躇がない。いつものように天然なんだかなんなんだかわからない発言はなりを潜めて、戦いの中にあるちはるはいつだって攻撃的で、隙がなく戸惑いも迷いもない。はじめて戦いを見た時は普段のちはるとのギャップがありすぎて目の前にいるのが誰なのか理解できなかったのがもう懐かしいような気がする。けど、今こうやって休み時間にマカロンをほおばりながら欠伸をする様子からは想像がつかないなあと学校にいるちはるを見るたびにあっちの姿と結びつかなくて妙な気分になっていた。

「なあちはる」
「うーん?」
「そのマカロンどうしたんだあ?」

 チョコレートやドーナツにまじってあるカラフルなそれを指させば、ちはるは眠そうに「これねえ」とひとつマカロンをつまんでぱくりとそれを口に入れた。

「悠一が昨日大量にくれたからそれの残りだよ」
「へえ、迅さんがねえ」

 あの人がちはるを……まあ言ってしまえば……孫、のようにかわいがってお菓子を大量に与えているのはちはるを見てたらよく、本当によくわかる。毎日持ってくるお菓子の中には必ずと言っていいほど迅さんからのお菓子が入っている。ということはつまり、迅さんにかなりの頻度で会っているということだろう。……なーんか、それって。

「毎日迅さんと会ってるらしいじゃん」
「そんな頻繁には……、あっでも最近は会ってるかも!京介もお菓子くれるしみんなきっと神様の化身だね!」
「ちはるにとっちゃ菓子くれる人間みんな神様だもんなー」
「それは言えてる」

 真顔でうんうん頷くちはるは手に持っていたマカロンを口に放り込むと、ちらりとお菓子の山に目を滑らせて「どれにしよっかなー」なんて楽しそうにつぶやいた。休み時間は残り5分やそこらなのにこれから1時間は食べ続けそうである。いやこれもいつものことで、お菓子の袋を机の横に下げているのもいつもの光景だ。そういや教師もなんにも言わないあたり甘やかされてるなこいつ。……と思うものの、あれだけ強ければサイドエフェクトを持ってても不思議ではないけどそういや聞いたことないな。甘いもの食べる必要のあるサイドエフェクトなんてないだろうし。まあ強くてもサイドエフェクト持ちではないヤツなんてたくさんいるわけだけど。

「陽介もお菓子くれる時は神様みたいに思うんだけど」
「へ?……って、なんて?」
「お菓子くれない時はただの陽介なのに……」
「秀次と俺の扱いなんか違くねえ?」

 いつも一緒にいる秀次を思い浮かべて、俺との対応の差を考えて若干へこむ。秀次にはなにかとべたべたべたべたしてるくせに俺には一切そういうのないってどういうことだ。いや、まあ、べたべたされても困る……というか対応に困るとは思うけど。俺にべたべたするちはる……?想像するための脳が拒否した。よく秀次や迅さん、木虎なんかには抱き着いているところを見るものの俺には抱き着いてきたことないしなこいつ。……あれなんで俺だけ。お菓子もそれなりに与えているはずが……いや与えるというか餌付けというか……。どっちも一緒か。

「あー、バウムクーヘン」
「ん?」

 別に抱き着いてほしいとかじゃない。断じてない。こんなぺったんこに抱き着かれてもまったくうれしくない。いや仮にも女という人種であるうえに嫌いではないというかまあ好きな部類の女であるから全くうれしくないということはない。そんなことはない、が。いざこうして目の前にしてちはるを見てみるとなんで俺はこいつがすきなんだとつい思ってしまう。どうがんばっても幼児体型だし、顔も童顔だし。かわいいといえばかわいい部類だろうけどこの小ささも相成っているとしかおもえない。俺に対しての扱いが雑だし。

「バウムクーヘンあるけどいるか?」
「!!」

 言った途端、口にいれていたチョコレートを飲み込んでぱっと表情を明るくしたちはる。目の中に星でもあるんじゃないかと思うくらいにキラキラしだしたのは気のせいじゃないと思う。子供がだいすきなおもちゃを目の前にした時以上のキラキラ具合すぎて俺も思わず口元を緩めてしまった。くそ。

「いる!!」
「ほら」

 ポケットからそれを出して、ちはるの手に置く。さっき休み時間になってからわざわざポケットにいれてくるあたり俺も俺だとおもう。末期だ。なんかもう末期だ。おかしいとしか思えない。バウムクーヘンを受け取ったちはるはしばらくそれをキラキラしたまま見つめたあと、ぱっと俺を見上げて笑う。

「ありがとう陽介!あいしてる!」

 誰にでも言うあいしてる、と笑顔をもらうためだけにこうやってわざわざ休み時間に来ては餌付けして。なんか俺バッカみてえ。いや実際馬鹿なんだろうけど。いや、馬鹿なんだけど。はあ、と大きなため息をついて俺はちはるの頭をなでてからちはるのクラスをあとにした。

戻る